アニメ業界のIPとは?活用するメリット・ビジネスモデルを弁理士がわかりやすく解説
アニメ業界で「IP」が注目されており、アニメビジネスを成功させるにはIPへの正しい理解が必要です。
アニメ業界における「IP」とはどのようなものを指すのでしょうか?また、IPを活用したアニメ業界のビジネスモデルには、どのようなものがあるのでしょうか?
今回は、アニメ業界におけるIPの概要やIPが注目されている理由、自社IPと他社IPの違い、アニメ業界でIPを活用したビジネスを成功させるポイントなどについてくわしく解説します。
アニメ業界における「IP」とは
アニメ業界で注目されている「IP」は「Intellectual Property」の頭文字をとったものであり、「知的財産」を意味します。知的財産とは、人の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物などのうち、財産的な価値を持つものです。
法律上の知的財産権は、発明を保護する「特許権」やデザインを保護する「意匠権」、美術などの創作物を保護する「著作権」などに分類できます。
アニメ業界やゲーム業界などコンテンツを取り扱う業界においては、コンテンツに関連する知的財産をまとめて「IP」と呼ばれることが多いです。
アニメは、知的財産(IP)の集合物であるといっても過言ではないでしょう。キャラクターのデザインからストーリー展開、セリフの言い回し、世界観、タイトル、ロゴ、音楽に至るまで、すべてが知的財産の塊です。
そうであるからこそ、アニメ業界でビジネスを成功させるためには、IPへの正しい理解や効果的な活用が不可欠といえます。
アニメ業界でIPが注目されている主な理由
アニメ業界でIPが注目されているのは、なぜなのでしょうか?ここでは、アニメ業界においてIPが注目されている主な理由について解説します。
- ・多様な収益源の確保につながるから
- ・長期的な価値創造がしやすくなるから
- ・新たなファン層の獲得につながるから
多様な収益源の確保につながるから
1つ目は、IPを理解し効果的に活用することで、多様な収益源が確保しやすくなるからです。
アニメは、1つの作品から多様な収益が発生し得るものです。
たとえば、テレビ放映やインターネット配信などでアニメやキャラクターの人気が出れば、関連グッズの販売による収益が期待できます。また、続編の展開や実写化、映画化、ゲーム化、イベントの展開などによる収益化も検討できるでしょう。これらのすべてを必ずしも自社で行わずとも、他社にライセンスして収益を得ることも可能です。
このように、アニメは1つのコンテンツから多様な収益を生み出すポテンシャルを有しており、IPを理解しておくことで効果的な収益化につながりやすくなります。
長期的な価値創造がしやすくなるから
2つ目は、IPをうまく活用することで長期的な価値創造がしやすくなるからです。
アニメにファンが付いた場合、IPを活用して長期にわたる収益化をしやすくなります。続編などの制作のほか、自社で関連商品を展開したり他社にライセンスをしたりすることで、放映終了後も長期的な価値の創造が期待できます。
新たなファン層の獲得につながるから
3つ目は、IPを活用して幅広い展開をすることで、新たなファン層の獲得につながるからです。
たとえば、アニメ作品をゲーム化した場合、元となったアニメは知らずにゲーム作品をプレイして、そこから改めて原作のアニメを視聴する場合もあるでしょう。同様に、キャラクターグッズに魅力を感じたユーザーがファンとなり、アニメ作品の視聴につながる場合もあります。
このように、IPを活用して幅の広い展開をすることは、ファンを獲得する「入口」を増やすことにもつながります。
アニメ業界における自社IPと他社IPの概要
IPを活用してビジネスを展開するにあたっては、自社IPと他社IPの違いを理解しておかなければなりません。ここでは、自社IPと他社IPそれぞれの概要を解説します。
自社IPとは
自社IPとは、自社が権利を有する知的財産です。アニメ業界においては、自社が制作したキャラクターやアニメタイトルなどを自社IPと呼びます。
人気のある自社IPは生み出すまでに労力や工夫を要する一方で、活用の自由度が高くなります。
他社IPとは
他社IPとは、他社が権利を有する知的財産です。
他社IPは、権利者である他者からライセンス(許諾)を受けることで活用できます。すでに人気の出ているコンテンツやキャラクターをビジネスに活かせるため生み出す労力がかからない一方で、活用の自由度は低くなります。
アニメ業界で自社IPを活用する主なメリット
自社IPと他社IPとを比較した場合、自社IPを活用することにはどのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、自社IPを活用した場合の主なメリットを5つ解説します。
- ・自社の収益を最大化しやすい
- ・次回作の売上も想定できる
- ・自社ブランドの強化につながる
- ・自由度が高い
- ・IPの譲渡による収益化も選択肢となる
裏返して考えると、これらは他社IPを活用する場合のデメリットともいえます。
自社の収益を最大化しやすい
自社IPを活用する場合には、他社にライセンス料などを支払う必要がありません。そのため、自社IPを活用する場合には、自社の収益を最大化しやすくなります。
一方で、他社IPの場合にはライセンス料などの支払いが必要となるため、その分自社の収益は少なくなります。
次回作の売上も想定できる
自社IPを活用する場合には、自社の判断で次回作の制作なども検討できます。次回作の制作などにあたって、改めて他の権利者から許諾を受ける必要などがないためです。
一方、他社IPの場合に次回作を制作するためには、当初の契約が続編の制作を前提としていない限り、改めてライセンスなどを受ける交渉が必要になります。
自社ブランドの強化につながる
自社IPにより人気のコンテンツが制作できれば、自社のブランド強化や他社との差別化につながります。
一方、他社IPの場合にはあくまでもコンテンツの人気を借りているに過ぎず、ブランドの強化には繋がりづらいでしょう。
自由度が高い
自社IPの最大の魅力は、自由度が高いことです。
自社IPでは権利者である他社との契約内容などに縛られることなく、自由なビジネス展開が可能です。また、商品展開などにあたって権利者の意向を確認する必要がないため、スピーディーに判断しやすくなります。
一方で、他社IPを契約に定められた内容を超えた利用をするためには、あらかじめ権利者である他社の許諾を得なければなりません。契約の範囲を超えて無断で商品展開などをすれば、差止請求や損害賠償請求などの法的措置の対象となります。
IPの譲渡による収益化も選択肢となる
自社IPの場合には、IPを他社にライセンスして収益を得ることが可能であるほか、IPを他社に譲渡して譲渡収入を得ることもできます。自社IPは、自社の財産であるためです。
一方、他社IPは自社の財産ではないため、売却によって収入を得ることはできません。また、他社にライセンスして収益を得る(つまり、いわゆる「又貸し」)には権利者の承諾が必要であり、承諾が得られる可能性は高くないでしょう。
アニメ業界で他社IPを活用する主なメリット
アニメ業界において、他社IPを活用することにもメリットはあります。ここでは、他社IPを活用する主なメリット(つまり、自社IPのデメリット)を解説します。
- ・開発期間を削減できる
- ・ファン層を一から開拓する必要がない
- ・売上の見込みが立てやすい
開発期間を削減できる
他社IPを活用する場合、収益化までに要する期間を大幅に削減することが可能となります。他社IPの場合には、他社によってすでに開発されたコンテンツを自社のビジネスに活かせるためです。
一方で、自社IPの場合にはキャラクターやコンテンツを自社で一から開発する必要があり、開発や収益化までに相当の時間を要します。
ファン層を一から開拓する必要がない
他社IPを活用する場合、ファン層を一から開拓する必要がありません。ライセンス料を支払うことで、すでにファンが付いているキャラクターやコンテンツを活用できるためです。
一方で、自社IPの場合には一からファンを開拓し維持しなければなりません。
売上の見込みが立てやすい
他社IPを活用する場合には、売上の見込みが立てやすくなります。他社IPの場合には、すでにファンがついているためです。そのため、他社IPを活用することで、自社製品を効率よく販売できる可能性が高くなります。
一方、自社IPを開発する場合、開発段階から売上を正確に予測することは容易ではありません。自社IPは一から育てる必要があり、本当に人気が出るのか、どれだけのファンがつくのかなどがわからないためです。
アニメ業界でIPを利用したビジネスモデル
アニメ業界においてIPを活用したビジネスモデルには、どのようなものがあるのでしょうか?ここでは、IPを利用した主なビジネスモデルについて解説します。
- ・コンテンツ販売
- ・メディアミックス
- ・ライセンス販売
- ・ノウハウ販売
コンテンツ販売
コンテンツ販売とは、IPの所有者がそのIPを活用した商品(コンテンツ)を制作して販売するものです。
たとえば、消費者に対してDVDやキャラクターグッズ、サウンドCD、トレーディングカードを販売することなどがこれに該当します。
また、近年ではNFTなどを付与したデジタルコンテンツを販売する場合もあります。
メディアミックス
メディアミックスとは、複数のメディアを組み合わせて(ミックスして)相乗効果を得る手法です。
たとえば、人気の出たアニメを漫画化・小説化することや映画化すること、ゲーム化すること、舞台化することなどがこれに該当します。
さまざまなメディアを組み合わせることで新たなファン層の獲得につながり、収益機会の拡大が可能となります。
ライセンス販売
ライセンス販売とは、IPの所有者(「ライセンサー」といいます)がそのIPの使用を他社(「ライセンシー」といいます)に許諾する代わりに、ライセンス料を得るものです。ライセンス料は定額とする場合もあれば、ライセンシーの販売数量や利益額などに応じた変動制とする場合もあります。
ライセンサーはライセンス料を得られる一方で、ライセンシーは他社IPを活用して効率的に利益を得られるメリットがあります。また、単純なライセンス契約のみならず、コラボレーション企画をすることもあります。
ライセンス販売をする場合には、契約内容に特に注意しなければなりません。契約書の内容に問題があれば、ライセンシーが問題のある使用をした際にも契約が解除できなかったり、想定した範囲を超えてIPが利用されたりするおそれが生じます。そのような事態を避けるため、IPのライセンスをする際は弁理士のサポートを受けることをおすすめします。
ノウハウ販売
IPの活用に成功した場合には、ノウハウ販売による収益化も選択肢に入ります。
ノウハウ販売とは、IPそのものの活用で収益を得るのではなく、ブランディング戦略・メディアミックス戦略の手法や、魅力的なIPを構築するためのキャラクターデザインなどのノウハウなどを他社に伝えて対価を得る手法です。
IPの活用で大きな成功を得た場合にはノウハウにも高いニーズが生じ、ノウハウ販売で集英を挙げられる可能性が高くなります。
アニメ業界でIPを活用したビジネスを成功させるポイント
アニメ業界においてIPを活用したビジネスを成功させるには、どのようなポイントを踏まえればよいのでしょうか?最後に、IPを生かしたアニメビジネスを成功させる主なポイントを7つ解説します。
- ・魅力的なキャラクターを創る
- ・戦略をもってブランディングを行う
- ・市場のトレンドを踏まえる
- ・海外展開を予定している場合はその地域の特性を踏まえる
- ・デジタル技術を活用する
- ・幅広い展開をする
- ・知財戦略に強い専門家のサポートを受ける
魅力的なキャラクターを創る
1つ目は、魅力的なキャラクターやストーリーを創ることです。
IPを活用したアニメビジネスで成功を収めるには、ファンの獲得が何より重要といえます。せっかくアニメ作品を制作してもさほどファンがつかなければ、続編を展開したりグッズを販売したりしたところで十分な収益を得ることは期待できないためです。
また、ライセンス収入を得ようにも、ファンがさほどついていないコンテンツに対して多額のライセンス料を支払う企業は見つからないでしょう。そして、ファンを獲得するにはキャラクターやストーリーに魅力がなければなりません。
キャラクターやストーリーを魅力的なものに仕上げることでファンが獲得しやすくなり、関連グッズの販売や続編などによる収益を上げやすくなります。
戦略をもってブランディングを行う
2つ目は、戦略をもってブランディングをすることです。
いくら魅力的なキャラクターやコンテンツを制作しても、ターゲット層に見つけてもらえなければ、ファンになってもらうことはできません。強固なファン層を獲得するには、戦略的かつ一貫したブランディングが必要です。
効果的なブランディングをするためには、想定されるファン層の分析が先決です。
非常に粗い例であるものの、成人男性をターゲットとする場合と未就学児をターゲットとする場合とでは、打ち出すべきメッセージや強調すべきキャラクターの魅力、ブランディングに活用するツールなども異なるでしょう。
そのため、まずは想定される主要なファン層を定めたうえで、その層に合ったブランディングを行うことが成功への鍵といえます。
市場のトレンドを踏まえる
3つ目は、市場のトレンドを踏まえてコンテンツを制作することです。
多くの人が「魅力的」と感じるキャラクターやストーリーは、時代とともに変遷しています。時代に即した魅力的なキャラクターやストーリーを取り入れることでコンテンツへの消費者の関心が高まり、IPビジネスを成功に導きやすくなります。
もちろん、すべて時代に迎合すべきということではなく、あえて多数派が考える魅力とは異なる方向性を打ち出すことも戦略の1つでしょう。ただし、時代に即さない表現があまりにも過激であればターゲット層が共感できずファンが離れるおそれがあるため、全体的なバランスを踏まえたコンテンツ制作が求められます。
海外展開を予定している場合はその地域の特性を踏まえる
4つ目は、海外展開を予定している場合には、その海外の特性を踏まえたキャラクター・ストーリーとすることです。
海外展開を予定している場合、その地域の特性を理解しておかなければなりません。特に、差別に関わる問題や文化的な背景への誤解などは海外で敏感に反応される傾向にあり、ここへの配慮が足りないと判断されればファンの獲得は困難となります。
本格的な海外展開を目指すのであれば、その国のパートナーとの協力が不可欠となるでしょう。
デジタル技術を活用する
5つ目は、デジタル技術を効果的に活用することです。
SNSやVRなどのデジタル技術を効果的に活用すれば、ファン層を広げることにつながります。また、メタバース内などでファン層を獲得できれば、メタバース上で活用できるデジタルアイテムの販売やデジタルトレーディングカードの販売などで収益を上げられる可能性も期待できます。
幅広い展開をする
6つ目は、幅広い展開をすることです。
元となるコンテンツがアニメであるからといって、ファンの入口をアニメに限定する必要はありません。IPを活用したキャラクターグッズやゲームなどの人気が出れば、これらを入口としてファンが増える効果も期待できます。
幅広い展開をすることで消費者との接点が増え、ファンを獲得しやすくなります。
知財戦略に強い専門家のサポートを受ける
7つ目は、知的財産に強い専門家のサポートを受けることです。
アニメ業界でIPを活用したビジネスを成功に導くには、IPに強い専門家のサポートが不可欠です。せっかく魅力的なコンテンツを制作しても、これについて商標権などの権利獲得を逃したりライセンス時の契約内容に問題があったりすれば、想定したように収益が上げられないおそれが生じるためです。
また、日本の保護制度は原則として日本国内においてのみ通用するものであり、海外で保護を受けるには国ごとの制度に従って権利化しなければなりません。知的財産について考慮しないまま海外展開をすれば、模倣品などがあふれても対応できないおそれが生じます。
このような事態を避けるため、アニメ業界でIPを活用したビジネスを成功させたい場合には、弁理士のサポートを受けるべきです。弁理士のサポートを受けることで自社のIPを守るために必要な知的財産権を取得しやすくなるほか、ライセンス時においても適切な契約を締結することが可能となります。
まとめ
アニメ業界で注目されているIPの概要や自社IPと他社IPの違い、IPを活用したアニメビジネスを成功させるポイントなどを解説しました。
アニメ業界などでは、知的財産を表す言葉として「IP」がしばしば活用されます。IPを意識してビジネスを組み立てることで多様かつ長期的な収益確保につながるほか、新たなファン層を獲得しやすくなります。
IPには「自社IP」と「他社IP」が存在するため、それぞれの特性や自社の展望などに合わせて最適な知財戦略を構築するとよいでしょう。アニメ業界においてIPを活用したビジネスを成功させたい場合には、弁理士のサポートが不可欠といえます。
IP Keypersonでは、知財に強い専門家へのインタビュー記事を多数掲載しております。アニメのIPを活用したビジネス展開をご検討の際は、他の記事もぜひご参照ください。