海外進出のライセンス契約での注意点は?失敗しないポイントを弁理士が解説

【2025】海外進出のライセンス契約での注意点は?失敗しないポイントを弁理士が解説

海外進出にはさまざまな形態があり、その一つが現地企業や現地に設立した子会社などとのライセンス契約の締結です。

では、海外進出時に締結するライセンス契約には、どのような種類があるのでしょうか?また、海外進出にあたってライセンス契約を締結する際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?

今回は、海外進出にあたって知っておくべきライセンス契約の概要やライセンス契約締結のポイント、ライセンス契約で失敗しないための対策などについて、弁理士がくわしく解説します。

海外進出におけるライセンス契約の主な種類

はじめに、海外進出時に活用されることの多い主なライセンス契約について、それぞれ概要を解説します。

  • 特許ライセンス契約
  • 商標ライセンス契約
  • フランチャイズ契約
  • 意匠ライセンス契約

特許ライセンス契約

特許ライセンス契約とは、自社が特許を有する発明の実施を他社に許諾する契約です。たとえば、海外に子会社を設立してその子会社に発明の実施を許諾し、その子会社が海外において製品を製造することなどが検討できます。

商標ライセンス契約

商標ライセンス契約とは、自社が商標権を有する商標の使用を他社に許諾する契約です。たとえば、自社のブランドを表す商標について海外の企業に使用を許諾し、許諾を受けた海外企業がその国においてブランドを展開する場合などがこれに該当します。

フランチャイズ契約

フランチャイズ契約とは、フランチャイズ本部である「フランチャイザー」が、加盟店である「フランチャイジー」に商標の使用を許諾したりノウハウを提供したりしてブランドを展開する契約です。

日本の飲食店などが海外進出をする場合には、自社が直営店を出すこともある一方で、その国の企業とフランチャイズ契約を締結することで現地企業に展開してもらうことも多いでしょう。この場合、単に商標(店舗名やロゴマークなど)が同じというだけではなくノウハウも併せて提供することが一般的であり、フランチャイズ契約が多く活用されています。

意匠ライセンス契約

意匠ライセンス契約とは、自社が意匠権を有するデザインの使用を他社に許諾する契約です。たとえば、自社が意匠権を有する製品の製造・販売を海外企業に許諾する場合などには、意匠ライセンス契約の締結を検討することとなります。

日本で権利を取得したら海外でも保護される?

海外進出をするにあたってまず理解しておくべきことは、日本だけで登録を受けた特許権や商標権は、日本でしか保護されないということです。

日本で特許権や商標権を取得したら、発明や商標が全世界で保護されるとの誤解は少なくありません。しかし、特許や商標などの知財は「属地主義」が採られており、たとえば中国で保護を受けたいのであれば中国で、アメリカで保護を受けたいのであればアメリカで登録を受ける必要があります。

また、「これだけ取得すれば全世界で保護が受けられる」という「全世界特許」や「全世界商標」などの制度も存在しません。

そのため、海外進出を検討している場合は、ライセンス契約の締結に先立って、その国において権利を取得しておく必要があります。

海外進出に伴うライセンス契約の主なポイント

海外進出に伴って締結するライセンス契約では、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?ここでは、ライセンス契約の主なポイントについて解説します。

  • ライセンス対象とする権利の範囲を明確にする
  • 利用範囲を明確にする
  • 地理的範囲を明確にする
  • 独占か非独占かを明確にする
  • ライセンス対象の権利の消滅に備えた条項を設ける
  • 表明保証は慎重に検討する
  • 準拠法を定める

ライセンス対象とする権利の範囲を明確にする

1つ目は、ライセンス対象とする権利の範囲を明確にすることです。ライセンスの対象に疑義が生じないよう、契約書ではまず、ライセンスの対象を明確にしましょう。

ライセンスの対象が登録を受けている特許や商標などである場合は、その国においてその権利が特定できる登録番号などの情報を記載するのが原則です。対象の権利についてこのような登録制度がない場合には、ライセンスする権利が特定できるようできるだけ具体的に記載しましょう。

利用範囲を明確にする

2つ目は、利用範囲を明確にすることです。海外進出に伴って現地企業にライセンスをする場合、利用を無制限に許諾するわけではないでしょう。

たとえば、商標権のライセンスであれば、粗悪品に自社のブランド名を付けられたり、自社のブランドイメージにそぐわない製品に自社のブランド名を付けられたりする事態は避けたいことかと思います。このような行為をされれば、自社が築き上げたブランドイメージが毀損してしまいかねません。

そのような事態を避けるため、ライセンス契約の締結にあたっては、許諾する利用範囲を厳格に定めておく必要があります。

地理的範囲を明確にする

3つ目は、地理的範囲を明確にすることです。海外進出にあたってのライセンス契約では、その国においてのみライセンスすることがほとんどでしょう。

たとえば、日本企業がアメリカに進出するに伴ってライセンス契約を締結するのであれば、アメリカ国内での使用のみを許諾するのであり、ライセンシーが日本国内でその商標を用いることは想定していないはずです。その場合には、アメリカ国内での使用のみを許諾する旨を、契約書に明記する必要があります。

地理的範囲が明確になっていないと、ライセンサーが日本にも進出し、自社の経営を脅かす事態となるおそれも生じます。ライセンシーがどの地域でライセンス対象の知的財産権を使用できるのか明確にすることも重要です。

独占か非独占かを明確にする

4つ目は、独占であるか非独占であるかを明確にすることです。

ライセンス契約は、独占と非独占とに大別されます。同じ権利を他の企業にはライセンスせず、またライセンサー自身もその権利を使用しないことを確約する場合、独占でのライセンスを付与することとなります。

これと地理的範囲を組み合わせ、たとえばアメリカ国内ではそのライセンシーに独占的権利を付与することなども検討できます。

一方で、非独占の場合には、重ねて他の企業にライセンスしたり、ライセンサー自身が権利を使用したりすることも可能です。ライセンサー自身の選択肢を増やすためには、非独占が望ましいといえます。

ただし、ライセンシーとしては独占でのライセンスを求めることが多く、独占の方がライセンス料も高額となりやすい傾向にあります。そのため、これらも考慮したうえで独占とするか非独占とするかを検討する必要があるでしょう。

ライセンス対象の権利の消滅に備えた条項を設ける

5つ目は、ライセンス対象である権利が消滅した場合に備えた条項を設けることです。特許権や商標権などの知的財産は、一度登録を受けたからといって、その後絶対に消滅しないとの保証が得られたわけではありません。

たとえば、出願前に公知となっていた発明については、本来は特許を受けられないものの、公知となった事実が見落とされて登録に至るケースはゼロではないでしょう。このような無効理由がある場合、競合する他の企業から特許無効審判が申し立てられ、最終的に権利が無効となるおそれもあります。

このような事態に備え、海外進出に伴ってライセンス契約を締結する際は、万が一その契約の基礎となる権利が消滅した場合の処理についても定めておくと安心です。

具体的には、ライセンス料の返還の有無や返還する場合におけるその金額、権利消滅によってライセンシーが被った損害の賠償の有無や、賠償をする場合におけるその金額の制限などがこれに該当します。

なお、フランチャイズ契約などでは商標の使用許諾だけが目的なのではなく、ノウハウの提供なども契約内容に含まれているでしょう。そのため、この場合には、仮に知的財産権が消滅した場合であっても契約は終了しない旨の条項を入れて対応する場合もあります。

表明保証は慎重に検討する

6つ目は、表明保証をするか否かを慎重に検討することです。

表明保証とは、ライセンス対象である権利について第三者の権利を侵害していないことをライセンサー側が保証するものです。ライセンシーとしては、表明保証を付けるようライセンサー側に求めることが一般的でしょう。

とはいえ、他社のすべての権利を調査しきることは容易ではなく、実際に模倣などの意識がなかったとしても、第三者から権利侵害で訴えられる可能性はゼロではありません。そのため、ライセンシー側としては安易に表明保証をすることは避けるべきでしょう。

表明保証をする場合は、「自社が知る限りにおいて」など一定の限定を付すなどの対策をすることをおすすめします。

準拠法を定める

7つ目は、準拠法を定めることです。

海外進出に伴うライセンス契約の相手方は、海外に本拠を置く企業であることがほとんどでしょう。そのような相手方と万が一訴訟となった場合、どちらの国の法律が適用されるかによって結論が異なる場合があります。

また、準拠法が海外である場合、対応できる弁護士も限られやすいといえます。そのため、日本企業としては、準拠法を日本法とできるよう交渉するとよいでしょう。

海外進出に伴うライセンス契約で失敗しない対策

海外進出に伴うライセンス契約で失敗しないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?ここでは、主な対策を3つ解説します。

  • 海外進出の計画を入念に練る
  • 海外の知財制度を理解する
  • 海外の知財にくわしい弁理士のサポートを受ける

海外進出の計画を入念に練る

海外進出に伴うライセンス契約で失敗しないためには、海外進出の計画を入念に計画することです。

海外進出は日本とは勝手が違うことも少なくありません。日本ではそれまでトラブルに発展しなかったとしても、知財の保護について十分に検討しないまま海外進出すると、足元をすくわれるおそれがあるでしょう。

トラブルに発展したり大切な知的財産が毀損したりする事態を避けるため、海外進出に伴いライセンス契約を締結しようとする際は計画を入念に練り、契約内容などを十分に検討することをおすすめします。

海外の知財制度を理解する

海外進出で失敗しないためには、海外の知財制度について理解しておくべきでしょう。

先ほど解説したように、特許や商標などの知財は属地主義であるうえ、「全世界特許」や「全世界商標」のような制度は存在しません。また、登録を受けるための審査基準なども国によって異なり、知財にまつわる法規制も国によってさまざまです。

不測の事態が生じて後悔する事態を避けるため、進出を検討している国における知財の制度をあらかじめ調べ、理解しておくことをおすすめします。

海外の知財にくわしい弁理士のサポートを受ける

海外進出でライセンス契約を締結しようとする際は、海外の知財にくわしい弁理士のサポートを受けることをおすすめします。

弁理士は知財を専門とする国家資格です。海外の知財にもくわしい弁理士へ相談することで、海外進出にあたって知財を守る方法についてアドバイスが受けられるほか、その国への出願についてもサポートが受けられます。また、その国における知財制度について助言を受けたり、海外進出に伴うライセンス契約のレビューを受けたりすることもできるでしょう。

それまで弁理士に馴染みがない場合、弁理士への相談は敷居が高いと感じることもあるようです。しかし、弁理士は企業にとって知財面でのパートナーともいうべき存在であり、町医者のように気軽に相談して構いません。弁理士のサポートを受けることで、海外進出時のライセンス契約で失敗する事態を避けやすくなるでしょう。

海外進出に伴うライセンス契約を弁理士に相談するメリット

海外進出に伴うライセンス契約について、弁理士に相談するメリットは少なくありません。最後に、弁理士のサポートを受ける主なメリットを3つ解説します。

  • 知財保護の観点から契約内容のアドバイスが受けられる
  • 必要な出願についてアドバイスやサポートが受けられる
  • 戦略的な出願が実現しやすくなる

知財保護の観点から契約内容のアドバイスが受けられる

弁理士にサポートを依頼することで、自社の知財を保護するとの観点から、契約内容についてアドバイスを受けることが可能となります。

海外進出によって、自社の大切な知財が思わぬ形で利用されたりブランドイメージが毀損したりする事態は避けたいことでしょう。弁理士のサポートを受けて知財の観点からあらかじめ契約書のレビューを受けることで、不測の事態の発生を避けやすくなります。

必要な出願についてアドバイスやサポートが受けられる

弁理士に相談することで、海外で知財の保護を受けるためのアドバイスやサポートを受けることが可能となります。

海外で知財の保護を受けるには、原則としてその国の制度に則って出願をしなければなりません。また、出願後の審査基準なども、国によって若干の違いがあります。これらをすべて自社で調べ、的確な出願を実現することは容易ではないでしょう。

弁理士のサポートを受けることで、知財を保護するために必要な的確な出願が実現できます。

戦略的な出願が実現しやすくなる

実際の出願段階からではなく、知財戦略の策定段階から弁理士に相談することも可能です。

知財は戦略を策定していない場合、知財の獲得はどうしても後手に回りがちです。その結果、自社が有する知財の全体像を眺めた際に獲得した知財に穴があることや、統一感が乏しく競争力を十分に発揮できないことなどに気付く場合もあるでしょう。

知財戦略の策定段階から弁理士のサポートを受けることで、海外への出願を含め、自社が獲得すべき知財の全体像をあらかじめ把握することが可能となります。これを参照しつつ知財獲得を目指すことで、自社の競争力や交渉力をより高める知財の獲得につながるでしょう。

まとめ

海外進出におけるライセンス契約の概要やライセンス契約を締結する際のポイント、海外進出時のライセンス契約で失敗しないための対策などを解説しました。

海外進出の方法はさまざまである中で、現地企業や現地に設立した子会社などとライセンス契約やフランチャイズ契約を締結して進出するケースも少なくありません。海外進出に伴いライセンス契約を締結する際は、ライセンス対象である権利を明確に特定することや、ライセンスをする地理的範囲を明確にすることなどに注意しましょう。

海外進出に伴うライセンス契約でトラブルに発展したり、自社のブランドイメージが毀損したりする事態を避けるため、海外進出をご検討の際は弁理士へ相談することがおすすめです。

弁理士のサポートを受けることで自社の知財を保護するための適切な契約条項が設けやすくなるほか、必要な出願についてアドバイスやサポートを受けることなども可能となります。