
【2025】新規事業創造に「知財」を活かす方法とは?実践へのアプローチ方法を弁理士が解説
知財は自社のアイディアや技術、デザインなどを守る役割を有するほか、新規事業の創造に活かすことも可能です。
では、知財を新規事業の創造に活かすには、どのようなアプローチで行えばよいのでしょうか?また、知財を活用して効果的に新規事業を創造するには、どのようなポイントを踏まえればよいのでしょうか?
今回は、知財を活かして新規事業を創造するアプローチや基本のステップ、新規事業の創造に知財を活用する際のポイントなどについて、弁理士がくわしく解説します。
知財の持つ3つの役割
そもそも知財(知的財産)は、どのような役割を担うのでしょうか?はじめに、新規事業の展開時に知っておくべき知財の主な役割を3つ紹介します。
- 自社の技術やデザインを守る
- ライセンスにより収益を得る
- 将来の新規事業創出の取っ掛かりとする
自社の技術やデザインを守る
知財が持つ代表的な役割は、自社のアイディアや技術や、デザインなどを守ることです。苦心して生み出した発明やデザインを他社に盗用されたり、苦心して育てたブランドの類似品が溢れたりする事態は、避けたいことでしょう。
このような「ただ乗り」を許してしまうと、他社は開発などに労力をかけていないため、価格競争で負けてしまうかもしれません。また、自社と似たロゴマークを付した商品が粗悪品であれば、自社のブランドイメージが毀損するおそれも生じます。
そこで、発明について特許権を、デザインについては意匠権を、ブランドを示すロゴやネーミングについては商標権を取得することで、他社による盗用の抑止力となります。また、万が一これらの権利を侵害された際には、侵害行為の停止などを求める「差止請求」や、侵害行為によって生じた損害の賠償を求める損害賠償請求が可能となり、侵害からの回復もしやすくなるでしょう。
このように、的確な知財を獲得することは、自社の技術やデザインを守ることにつながります。
ライセンスにより収益を得る
知財を獲得することで、ライセンスによって収益を得る道が開かれます。
たとえば、自社がある発明Xについて特許権を取得した場合、他社がその発明Xを適法に実施するためには、自社から許諾を得なければなりません。自社は、これを拒絶するか、ライセンス料を受け取って許諾するかを自由に選択できます。
また、ライセンス料の支払いを受けるのではなく、相手企業が有する特許についてもライセンスを受ける交換条件(「クロスライセンス契約」といいます)を提案することもできるでしょう。
自社が有しているのがその分野において避けることの難しいコア特許である場合、自社は高い交渉力を手にしたこととなります。
将来の新規事業創出の取っ掛かりとする
自社が獲得した特許権などの知財は、自社の強みを体現したものといえます。そのため、これを取っ掛かりとして自社の強みを活かした新規事業を検討・展開することも可能です。
自社が獲得した知財とすでに見えている未来とを重ね合わせて検討することで、これまで見えていなかったもう一歩先の未来が予想でき、自社の進むべき道を定めやすくなります。これについて、より掘り下げて解説します。
新規事業の創造に知財を活かす主な方法
新規事業を創造するにあたって知財を活かす方法には、主に2つのアプローチ方法があります。ここでは、それぞれのアプローチ方法の概要を解説します。
- 自社の技術を軸に将来の展開を検討する
- 他者の知財を調査し将来トレンドを予測する
自社の技術を軸に将来の展開を検討する
自社が現在有している知財や自社の技術を軸として、将来の展開を検討する方法です。この方法では、自社が有する知財や技術を洗い出し、これらの視点から「すでに見えている未来」を見据え、その先の未来を検討します。
技術トレンドのみに着目して検討するのではなく、社会全体の変化や顧客ニーズ、課題などを踏まえてシステムの全体を見据えて検討することで、より革新的な新規事業アイディアが生まれやすくなるでしょう。
他者の知財を調査し将来トレンドを予測する
知財は、その時代の技術トレンドを映す鏡であるといっても過言ではないでしょう。他社によって出願された発明をマトリックス化することで、まだ到来していない未来のトレンドや技術の方向性が想定しやすくなり、これを新規事業の創造に活かすことが可能となります。
新事業創造における知財戦略実践への4つのアプローチ方法
新規事業創造にあたって知財戦略を実践するには、主に4つのアプローチ方法があります。ここでは、特許庁が公開している資料「新事業創造における知的財産の新たな役割」を参考に、それぞれのアプローチ方法について概要を解説します。
- 新事業部門内で知財戦略を実行する
- 新事業部門に知財部門の人材が参画して実行する
- 知財部門がインテリジェンスとして支援する
- 知財部門自らが新事業創造活動を実践する
新事業部門内で知財戦略を実行する
1つ目は、新規事業を担う部門の内部にて知財戦略を実行する方法です。
このアプローチでは、知財戦略を実践する機能を新規事業部門が担います。そのうえで、知財部門は専門的な事項などについて新規事業部門と連携して知財戦略の実践をサポートします。また、知財部門を新事業部門内に所属させる場合もあります。
特に、知財部門を新規事業部門の参加とする場合、通常では知財部門に入って来づらい情報や課題などに触れる機会が増えるでしょう。知財部門がこれらを踏まえた情報や分析結果を提供することで、知財部門による知見を経営判断に活かしやすくなります。
また、新規事業創造部門に必要な機能を集約させた場合には他部署に同意を得るべき事項を減らすことが可能となり、迅速な意思決定が可能となります。
新事業部門に知財部門の人材が参画して実行する
2つ目は、新規事業部門に知財部門の人材が参画し、知財戦略を実行する方法です。この方法では、知財について深い見識を有する知財部門の人材が、兼務や異動などによって新規事業部門に所属します。
知財部門の人材が新規事業部門内で知財戦略を実践することで、新規事業の実現に知財部門の知見をより活かしやすくなります。また、部門を超えて新たなことにチャレンジする風土が全社的に共有されやすいうえ、「越境」に挑みやすくなることで企業の課題に全社で取り組みやすくなることもメリットです。
知財部門がインテリジェンスとして支援する
3つ目は、知財部門がインテリジェンスとして支援する方法です。この方法では、知財部門が直接知財戦略の実践を担うのではなく、新規事業部門に対して知財分析を提供するなど、インテリジェンスとしての役割を担います。知財部門から提供された情報を踏まえ、新規事業部門が知財戦略を実践します。
知財部門が単なる一部署としての役割を果たすのみならず知財部員と新規事業部員とが密接に連携し暗黙知も含めたあらゆる情報を共有することで、より実践的かつ的確な情報提供を実現できるでしょう。また、知財部門は質問されたことに答えるのみではなく、新規事業創造に対する戦略的な提案までもが求められます。
知財部門自らが新事業創造活動を実践する
4つ目は、知財部門自らが新規事業の創造活動を実践する方法です。この方法では、知財部門が新規事業の事業開発の主体としてプロジェクトマネジメント的な機能を発揮し、事業開発機能を担います。
とはいえ、知財部員が新規事業開発までを担うハードルは高く、そのような人材の確保は容易ではないでしょう。戦略的思考に強みを有する外部の弁理士のサポートを受けることで、そのハードルを多少引き下げることが可能となります。
知財を活かして新事業を創造する3ステップ
知財を活かした新規事業の創造は、どのようなステップで行えばよいのでしょうか?ここでは、知財を活かした新事業創造の3ステップについて解説します。
- 構想段階
- 設計段階
- 具体化段階
構想段階
第1ステップは、構想段階です。ここではまず、将来の社会像に想いを馳せ、「こんな社会になったらよい」などの想いから近未来のデザインを徹底的に想像します。この近未来のデザインが具体的であればあるほど、自社が取り組むべき新規事業を定めやすくなるでしょう。この段階では、単なる未来のトレンド予想に留まらないよう注意が必要です。
近未来の具体的なデザインを想像したら、そこからその社会における具体的なニーズやそのニーズに応える方法などを検討します。この段階で、新規事情のターゲットとする顧客層や、求められるスペックなどが明らかとなってきます。
そのうえで、企業として特にこだわりたい機能を特定したり、具体的な実現方法(自社単体で行うのか、複数社間で連携するのかなど)を検討したりします。この段階では、特に知財部門が強みを発揮することでしょう。知財部門はある概念の上位概念・下位概念を捉えたり、機能の置換可能性を検討したりすることを日常的に行っているためです。
設計段階
第2ステップは、設計段階です。このステップでは、構想段階で検討した事業アイデアを拡大し、ビジネスモデルなどの設計を行います。
この段階では、オープン&クローズ戦略も活用しつつ事業の設計を進めます。オープン&クローズ戦略とは、自社の技術について特許を出願するなどして公開する「オープン戦略」と、特許出願をせず自社の技術を秘匿化する「クローズ戦略」とをかけ合わせる戦略です。
基本的な考え方として、自社がビジネスとして強みのない領域については、オープン戦略を採るとよいでしょう。オープン戦略を採ることで、新製品の市場を拡大しやすくなるほか、自社だけでは実現困難な社会課題の解決がしやすくなります。一方で、自社が事業として十分な強みを有している領域については、クローズ戦略を検討します。
このような領域では自社のみで十分に社会課題解決に資することができるうえ、クローズ戦略を採ることで自社のシェアを拡大しやすくなるためです。
併せて、研究・開発にも取り組んだうえで、基本となる特許の取得を目指します。この過程では他の企業に対して製造を委託するなどのアライアンスを組むことも多いため、適切なライセンス契約を締結しましょう。
具体化段階
第3ステップは、具体化段階です。このステップでは、描いた事業構想を具体化します。
このステップでもさまざまな課題が生じ得るため、各課題への対処が必要となります。生じ得る課題は、たとえば次のものなどです。
- コアコンピタンスの保護などに不安がある
- 新規事業のビジョンの社内共有が進まない
- 新規事業領域におけるアライアンス交渉の成功確率が低い
- スタートアップと共創した新事業が拡大しない
具体化へ向けた課題が生じた場合には、その課題の内容に応じて対応策を検討します。たとえば、「新規事業のビジョンの社内共有が進まない」との課題については、10年後、20年後、30年後など未来の「ありたい姿」を定め、これを従業員と共有することなどが挙げられます。
また、「アライアンス交渉の成功確率が低い」のであれば、自社の優位性が十分に確保できていないのかもしれません。この場合には、自社がコア技術について特許の獲得を進め、他社が自社とアライアンスする以外の選択肢を狭めることが検討できます。自社が有するコア技術を活かしてアライアンス先の企業が周辺特許を取得できるよう提案することも一つでしょう。
具体的な課題解決策は課題の内容や企業が置かれた状況などによって大きく異なるため、弁理士のサポートを受けたうえで検討することをおすすめします。
新規事業の創造に知財を効果的に活用する方法・ポイント
新規事業の創造にあたって知財を効果的に活用するためには、どのようなポイントを踏まえればよいのでしょうか?最後に、新規事業の創造にあたって知財を活かす主な方法とポイントを解説します。
- 知財戦略を策定する
- 事前調査を徹底する
- 戦略的思考に強い弁理士のサポートを受ける
知財戦略を策定する
1つ目は、知財戦略を策定することです。
知財を活かした新規事業の創造は、知財戦略の策定と表裏一体です。知財戦略とは、知的財産を最大限活用し、自社の強みを最大限発揮し事業を成長させるための長期的な戦略です。
知財戦略を策定することで自社の強みや今後獲得を目指すべき知財などが明確となり、自社が取り組むべき事業分野を定めやすくなります。
事前調査を徹底する
2つ目は、事前調査を徹底することです。
新規事業を検討する際は、他社がすでに出願している特許などをあらかじめ調査しておくべきです。このような特許調査を、「先行技術調査」といいます。
先行技術調査が不十分である場合、せっかく構想した新規事業が他社の権利を侵害していることに途中で気付けば、方向転換を迫られる事態となりかねません。また、すでに他社によって発明されている技術について、本来であれは不要であったコストや時間をかけて「再発明」をしてしまう事態も生じ得ます。
なお、他社の技術を参照せず一から開発したのだとしても、すでに特許出願がされている他社の発明と結果的に重複するのであれば、自社の発明について特許を受けることはできません。
このような事態を避けるため、新規事業を検討する段階から先行技術調査を徹底しておくべきでしょう。
戦略的思考に強い弁理士のサポートを受ける
3つ目は、戦略的思考に強い弁理士のサポートを受けることです。
知財を活かした新規事業開発をしようとする際は、戦略的思考に強い弁理士のサポートを受けるのがおすすめです。弁理士は知財を専門とする国家資格であり、特許や商標などの出願手続きはもちろん、知財戦略の策定や特許調査、新規事業の検討、ブラッシュアップなどの段階からの支援も可能です。
戦略的思考を強みとする弁理士のサポートを受けることで、自社の交渉力強化などの効果も見据え、より自社の飛躍につながる新規事業の創造が可能となるでしょう。
まとめ
新規事業の創造に知財を活かす方法や主なアプローチ、知財を活かした事業創造を成功させるポイントなどを解説しました。
知財は自社の強みや社会全体におけるトレンドを色濃く反映するものです。自社が現在有している知財を洗い出したり、他社による知財の出願傾向を分析したりすることで、将来の技術トレンドや方向性などを推測することが可能となります。
知財を活かして新規事業を創造する際は、構想段階と設計段階、具体化段階の3ステップで行うのが基本です。できるだけ初期の段階から弁理士のサポートを受けることで、より自社の成長につながる新規事業の創造が可能となるでしょう。
知財を活かした新規事業創造について相談できる弁理士をお探しの際は、戦略的思考に強みを有している弁理士を選ぶことをおすすめします。