特許出願に使える補助金や減免制度は?費用軽減につながる制度を解説

【2025】特許出願に使える補助金や減免制度は?費用軽減につながる制度を解説

特許出願には、さまざまな費用がかかります。特許権を取得することで発明の実施やライセンスによる収益が見込まれるとはいえ、出願段階でかかる費用を抑えたいと考える人も少なくないでしょう。

そこでおすすめなのが、特許出願時に使える補助金や減免制度の活用です。これらの制度を活用することで、特許出願にかかる費用を抑えられたり、特許出願にかかる費用の一部について補填が受けられたりする可能性が生じます。

では、特許出願には、そもそもどの程度の費用がかかるのでしょうか?また、特許出願に活用できる補助金や減免制度には、どのようなものがあるのでしょうか?今回は、特許出願の費用や特許出願に使える補助金、減免制度などについて、弁理士がくわしく解説します。

なお、当記事は2025年4月時点における情報を元に記載しています。補助金制度や減免制度は恒久的なものではなく、今後制度が改訂・廃止される可能性もあるため、実際に特許出願をしようとする際は最新情報をご確認ください。

特許出願とは

特許とは、発明を保護する制度です。ある発明について自社が特許権を取得した場合、自社はその発明の実施を独占することが可能となります。

他社がその発明を適法に実施するには、自社から実施の許諾を受けなければなりません。自社は、他社による実施の申し出を拒否することもできる一方で、ライセンス料の支払いを条件に実施を許諾することも可能です。

ただし、特許権は発明と同時に自動的に付与されるようなものではなく、発明について特許を受けるには、特許庁へ出願しなければなりません。出願後は形式面と実体面からの審査がなされ、所定の要件を満たしていると判断された場合に特許査定がなされます。特許を受けるために特許庁に出願することを「特許出願」といいます。

特許出願や特許権の維持にかかる主な費用

特許出願や特許権の維持には、どのような費用がどの程度かかるのでしょうか?ここでは、主な費用について解説します。

なお、ここで紹介するのは日本国内に出願する場合にかかる費用であり、海外に出願する場合の費用は大きく異なります。海外出願の場合には出願する国や手続きの選択などによってかかる費用が大きく変動するため、あらかじめ弁理士へご相談ください。

  • 弁理士報酬
  • 特許庁に支払う費用
  • 特許年金

弁理士報酬

特許出願を自力で行うハードルは低くありません。無理に自力で行うと、特許権が獲得できなくなったり、必要以上に範囲を狭めることで権利の価値が低くなったりするおそれが生じます。そのため、特許出願にあたっては、弁理士のサポートを受けるのが一般的です。

特許出願を弁理士に依頼した場合には弁理士報酬がかかります。弁理士報酬の目安は、25万円から35万円程度です。

ただし、弁理士報酬は自由化されているため、具体的な報酬額や報酬体系は事務所によって異なります。また、出願内容が複雑でボリュームが大きい場合や請求項の数が多い場合などには報酬額が加算され、費用が高くなる傾向にあります。

そのため、実際に特許出願を検討している場合には、特許出願の依頼を検討している事務所からあらかじめ見積もりをとるとよいでしょう。

特許庁に支払う費用

特許出願に際しては、特許庁に手数料を支払わなければなりません。これは、仮に弁理士に依頼しなかったとしてもかかる費用です。それぞれ、概要と金額を紹介します。

出願手数料

出願手数料とは、特許の出願時に特許庁へ納めるべき手数料です。出願手数料の額は、1出願あたり14,000円とされています。

電子化手数料

電子化手数料とは、特許出願をオンラインではなく書面で行う場合に追加でかかる費用です。電子化手数料の額は、次の式で算定されます。

  • 電子化手数料の額=2,400円+(800円×書面のページ数)

この電子化手数料は、出願日から数週間後に送付される払込用紙を用いて納めます。

審査請求料

特許は出願をするとまず方式審査がなされ、その後実体審査委に移行する際には改めて出願審査請求をしなければなりません。この出願審査請求時に納めるべき手数料が、審査請求料です。

審査請求料の額は、次の式で算定されます。

  • 審査手数料の額=138,000円+(4,000円×請求項の数)

特許年金

実体審査を経て特許査定がなされたら、特許権を発生させるために特許年金を納める必要が生じます。特許年金は「年金」との名称どおり、毎年発生するものです。

ただし、1年目から3年目の特許年金は、設定登録時にまとめて納めることとされています。

特許年金の額は、それぞれ次のとおりです。

項目 金額(1年分)
第1年から第3年まで 4,300円+(請求項の数×300円)
第4年から第6年まで 10,300円+(請求項の数×800円)
第7年から第9年まで 24,800円+(請求項の数×1,900円)
第10年から第25年まで 59,400円+(請求項の数×4,600円)

特許出願に使える補助金1:日本弁理士会の特許出願等援助制度

続いては、特許出願に活用できる補助金を紹介します。まずは、「日本弁理士会の特許出願等援助制度」について概要を解説します。

制度概要

日本弁理士会の特許出願等援助制度とは、特許出願や実用新案登録出願、意匠登録出願、商標登録出願、これらに関連する手続きを行おうとする者に対して、日本弁理士会が費用を援助する制度です。

日本弁理士会が会費による予算の範囲内で実行している援助制度であり、優れた発明や考案、意匠の創作(以下、「発明等」といいます)と事業活動の擁護に資することが目的とされています。

援助要件

この制度で援助を受けるには、次の要件をすべて満たす必要があります。

  1. 外国出願ではないこと(日本国内への出願であること)
  2. 有用性のある発明等または事業活動であること
  3. 実施しようとしている発明等と事業活動の内容に具体性があること
  4. 出願済みでないこと
  5. 弁理士が出願の代理を行うこと
  6. 日本弁理士会の同一会計年度において、すでに援助を受けた者でないこと(援助を受けられるのは、1会計年度あたり1回まで。申請ができるのは、1会計年度あたり2回まで)

なお、「有用性のある発明等」とは、新規事業の創出など何らかの形で社会に貢献する可能性が高く、かつ権利化できる可能性が高い発明等を指します。

また、「有用性のある事業活動」とは、その事業活動を既に実施しているか、事業活動についての実施計画が既に具体的に定まっている事業であり、かつ、社会に貢献する可能性が高いものを指すとされています。

援助対象者

日本弁理士会の特許出願等援助制度の援助対象者は、次のいずれかに該当する者です。

  1. 個人:申請者の同一世帯の所得金額の合計額が一定の基準以下であること
  2. 中小企業:次のいずれかに該当し、特許出願等の手続費用を支払うことが困難であること
    1. 設立から7年以内であり、直近の年間純利益が500万円以下
    2. 設立から7年を超え、直近の年間純利益がゼロ円以下

原則として十分な資金がない者を対象とする制度であり、ある程度資金がある個人や中小企業は援助対象から除外されています。

援助内容

日本弁理士会の特許出願等援助制度を活用した場合、特許出願にあたって最大15万円の援助が受けられます。ただし、実際にかかった費用がこれに満たない場合には、手続きにかかった費用が援助の上限となります。

また、次の費用は手続き費用に含まれません。

  • 拒絶理由通知に対応する応答手続き費用
  • 審判手続費用
  • 特許料・登録料

申請方法

日本弁理士会の特許出願等援助制度への申請は、所定の申請フォームから申請するか、日本弁理士会の「問い合わせ」への連絡でWordファイルを入手したうえで必要書類をメールで送信する形で行います。申請には、申請フォーム(またはWordファイル)のほか、次の書類などが必要です。

  • (法人)登記事項証明書または登記簿謄本
  • (故人)世帯全部の住民票の写し
  • 資力を証する所定の書類
  • 特許に関する説明書及び要約書
  • 実施計画書

申請の注意点

日本弁理士会の特許出願等援助制度は、要件を満たして申請したからといって必ず援助を受けられるものではありません。申請後は日本弁理士会の知的財産支援センターにて審査がなされ、援助の可否が決まります。また、不採用となった場合であっても、その理由は通知されないこととされています。

そして、この制度を利用したからといって、特許の審査において有利となるわけでもありません。援助をご希望の際は、これらの注意点を十分に理解したうえで申請しましょう。

特許出願に使える補助金2:INPIT外国出願補助金

続いて、「INPIT外国出願補助金」の概要を紹介します。従来は「中小企業等海外展開支援事業費補助金」との名称で公募されていましたが、2025年度からはINPIT外国出願補助金へと名称が変更になりました。海外に特許出願をする場合には、この補助金が活用できる可能性があります。

制度概要

INPIT外国出願補助金とは、中小企業者等に対して、外国における発明(特許)などの権利化(出願手続き)に要する費用の一部を補助する制度です。中小企業者等が取り組む国際的な知的財産戦略の構築を支援しています。

補助対象経費

INPIT外国出願補助金の補助対象となる経費は、次の費用などです。

  • 外国特許庁等へ納付する出願手数料
  • 代理人費用
  • 翻訳費用

ただし、パリ条約に基づく優先権を主張して外国特許庁等へ出願するものなどだけが補助対象とされています。

補助率と補助上限額

INPIT外国出願補助金の補助上限額は、それぞれ次のとおりです。なお、補助率は一律で2分の1とされています。

中小企業者等・試験研究機関等(一部の者を除く) 試験研究機関等(一部の者)
1事業者あたりの補助上限額 300万円 上限なし
1出願あたりの補助上限額(特許) 150万円

申請の注意点

INPIT外国出願補助金は、いつでも申請できるわけではありません。2025年4月時点で判明している情報によると、次回の公募は2025年5月中旬頃から6月上旬頃に行われることとされています。申請をご希望の際は、最新情報にご注意ください。

また、補助金である以上は審査に通る必要があり、申請したからといって必ず受け取れるものでもありません。

特許出願に使える補助金3:自治体独自の補助制度

ここまでで紹介したもののほか、自治体(都道府県や市区町村)によってはその地域でビジネスを営む事業者を支援する目的で、独自の補助金制度や助成金制度を設けている場合があります。そのため、事業所の所在地の自治体に特許出願に使える制度がないか、確認しておくとよいでしょう。

特許出願で使える減免制度

特許出願には減免制度が設けられており、一定の要件に該当する場合に審査手数料や特許料などの軽減が受けられます。減免対象者と減免割合は、それぞれ次のとおりです。

対象者 審査請求料・特許料(第1年分から第10年分)
中小企業 1/2に軽減
小規模企業・中小スタートアップ企業 1/3に軽減
大学等 1/2に軽減
福島特措法認定中小 1/4に軽減
生活保護受給者、市町村民税非課税者 免除または1/2に軽減
所得税非課税者、法人税非課税中小企業 1/2に軽減

特に、「中小企業」や「小規模企業・中小スタートアップ企業」については、該当する人も少なくないでしょう。特許出願をする際は、減免制度の適用を忘れないようご注意ください。

参照元:特許料等の減免制度(特許庁)

特許出願は弁理士にお任せください

特許出願を便利に依頼すれば報酬は発生するものの、弁理士に任せることにはメリットが少なくありません。最後に、特許出願にあたって弁理士のサポートを受ける主なメリットを4つ解説します。

  • 無駄な出願を避けられる
  • 過不足のない最適な特許を出願しやすくなる
  • 手間や時間を削減できる
  • より価値の高い特許を取得しやすくなる

無駄な出願を避けられる

1つ目は、無駄な出願を避けられることです。

特許は出願したからといって必ず権利化できるものではなく、特許を受けるには所定の要件を満たさなければなりません。弁理士へ相談することで、その発明に係る特許化の見込みが把握でき、特許化の見込みが薄い発明について出願をする事態を避けることが可能となります。

過不足のない最適な特許を出願しやすくなる

2つ目は、過不足のない最適な出願が可能となることです。

特許の出願は、誰が作成しても同じとなるわけはありません。ある発明に係る特許請求の範囲が広すぎれば、すでに出願されている他の権利と抵触し、特許を受けられない可能性が高くなります。

その一方で、拒絶査定を恐れるあまり請求範囲を狭め過ぎれば、使い勝手が悪く価値の低い特許となるおそれが生じます。弁理士に依頼することで、過不足のない範囲設定が可能となり、獲得する権利の価値を最大化しやすくなります。

手間や時間を削減できる

3つ目は、自社で投じる手間と時間を削減できることです。

自社で特許出願をしようとすれば、多大な時間と手間を要します。その結果、本業に割くべきリソースを圧迫してしまえば、本末転倒でしょう。

弁理士に特許出願を任せることで、自社でかけるべき時間と手間を最小限に抑えられ、本業に注力しやすくなります。

より価値の高い特許を取得しやすくなる

4つ目は、より価値の高い特許を取得しやすくなることです。

弁理士によっては、アイデアのブラッシュアップ段階からサポートを受けることが可能です。この段階からサポートを受けることで、特許の価値をより高めることが可能となるでしょう。

知財戦略の策定やアイデアのブラッシュアップ段階から弁理士の関与を受けることでより価値の高い特許権の獲得が可能となり、自社の競争力や交渉力をより高めることへとつながります。

まとめ

特許出願にかかる主な費用を解説するとともに、特許出願に使える補助金制度や援助制度、減免制度を紹介しました。

特許出願には特許庁に納める手数料のほか、弁理士報酬がかかることが一般的です。特許出願にかかる費用を抑えたい場合には、補助金制度や減免制度などを積極的に活用するとよいでしょう。

ただし、これらの制度は恒久的なものではなく、改訂されたり新設・廃止されたりする可能性があるものです。また、特に補助金制度は申請できる期間が定められており、所定の期間外には申請することができません。そのため、実際に特許出願をしようとする際は、最新情報をご確認ください。特許出願について弁理士へ相談した際には、補助金制度や減免制度についてもアドバイスを受けられることも多いでしょう。