
【2025】デジタルコンテンツのIP戦略の重要性|取り組むメリットと進め方を弁理士が解説
アニメや漫画、ゲームなどIPを重視したコンテンツを取り扱う企業は、IPにまつわる戦略策定が必須といえます。戦略がなければビジネスで不利となるおそれがあるほか、コンテンツを活用しきれず収益を得る機会を逃す事態となりかねません。
では、企業がデジタルコンテンツのIP戦略を策定することには、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?また、デジタルコンテンツのIP戦略策定を成功させるには、どのようなポイントを踏まえればよいのでしょうか?
今回は、デジタルコンテンツのIP戦略の概要やコンテンツ産業に携わる企業がデジタルコンテンツのIP戦略を策定するメリット・デメリット、戦略策定を成功させるポイントなどについて弁理士がくわしく解説します。
デジタルコンテンツのIP戦略とは
IPとは、知的財産(Intellectual Property)の略称です。知的財産とは人間の創造的活動の結果として生み出されるアイデアなど無形のもののうち、財産的価値があるものを指します。たとえば、次のものなどが知的財産(IP)に該当します。
- 特許権:発明を保護する権利
- 実用新案権:考案を保護する権利
- 意匠権:物や建築物、画像のデザインを保護する権利
- 商標権:ネーミングやロゴマークなどの商標を保護する権利
- 著作権:著作物を保護する権利
そして、デジタルコンテンツのIP戦略とは、企業が自社が権利を有するデジタルコンテンツに関するIPを適切に保護し、かつ最大限活用するために策定する戦略を指します。戦略をもってIPを活用することで自社の競争力やブランドイメージを高めることにつながるほか、収益力を高めることも可能となります。
戦略面から見た自社IPと他者IPの違い
デジタルコンテンツのIP戦略を練るにあたっては、自社IPと他者IPとの違いを理解しておく必要があります。ここでは、自社IPと他社IPの概要を解説します。
自社IPとは
自社IPとは、自社が権利を有するIP(知的財産)のことです。たとえば、自社が著作権や商標権などの権利を有する漫画やアニメ、キャラクターなどがこれに該当します。
自社IPの活用は、コンテンツ産業で成功するための王道といえるでしょう。自社IPであればその活用にあたって他者の許諾などは不要であり、スピーディーな意思決定や多様な展開が実現できます。
他者IPとは
他者IPとは、自社以外の者が権利を有するIP(知的財産)を指します。
自社が他者IPを活用するには、権利者である他者の許諾を受けたうえで、所定のライセンス料を支払わなければなりません。一方で、すでにファンがついているコンテンツを活用できるため制作やファンの育成などにコストをかける必要がなく、いわば「美味しいところ取り」が可能となります。
自社IPを活用してIPコンテンツ戦略に取り組むメリット
コンテンツ産業において、自社IPを活用することにはどのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、自社IPを活用した戦略に取り組む主なメリットを5つ解説します。
- 長期的な価値創造がしやすくなる
- ファン層の拡大につながる
- 多様な収益源が確保できる
- 自社のコンテンツを効果的に活用できる
- 企業のブランド価値が向上する
長期的な価値創造がしやすくなる
1つ目は、長期的な価値創造がしやすくなることです。
自社IPの場合、そのコンテンツの使用や二次制作にあたって他者から許諾を得る必要などはありません。自社の判断だけで、二次創作や続編の制作などに自由に取り組むことが可能です。その結果、単発で収益化を図るのみならず、長期的な視点での価値創造がしやすくなり、戦略の幅も広がります。
ファン層の拡大につながる
2つ目は、ファン層の拡大につながりやすくなることです。
自社IPを活用した戦略を練ることで、さまざまな「入り口」からファンを獲得しやすくなり、ファン層の拡大が可能となります。たとえば、映画を「入り口」としたファンがその後漫画の読者となったり、ゲームを「入り口」としたファンがその後アニメのファンとなったりすることなどが想定できます。
このような柔軟な対応が可能となるのは自社IPならではの特権であり、これを存分に活用する戦略を練るべきでしょう。
多様な収益源が確保できる
3つ目は、多様な収益源を確保できることです。
自社IP活用の収益化には続編の制作などのほか、グッズ制作による収益も期待できます。また、他社にライセンスをしてライセンスを得ることも検討できるでしょう。
なお、IPのライセンスにあたっては、コンテンツ業界に強い弁理士のサポートを受けることをおすすめします。IPのライセンスに不備があれば、自社が想定した範囲を超えてIPを使用されたり、ライセンシー側がIPを毀損するような問題を起こしても契約解除が困難となったりするなどの問題が生じるおそれがあるためです。
そのようなトラブルを抑止し、かつ万が一トラブルが発生した際にスムーズな対処が可能となるよう、契約内容を十分に検討することをおすすめします。
自社のコンテンツを効果的に活用できる
4つ目は、自社のコンテンツを効果的に活用できることです。
せっかくポテンシャルの高いコンテンツを生み出しても、これを効果的に活用できなければ宝の持ち腐れと言わざるを得ません。自社のIPを効果的に活用するための戦略を練ることで自社のコンテンツの価値が客観的に把握でき、そのコンテンツが生み出す価値を最大化しやすくなります。
企業のブランド価値が向上する
5つ目は、企業のブランド価値が向上することです。
価値の高いIPコンテンツを有していることは、その企業のブランド価値向上につながります。たとえば、一般消費者から「あのコンテンツを世に送り出した会社」として認知されれば、自社が今後生み出す別の作品についても期待を持たれやすくなるでしょう。
また、価値の高い自社IPを有している場合、投資家や金融機関などからもプラスの評価を得られる可能性が高くなります。価値のあるIPは「知的財産」との名称どおり、無形の「財産」であるためです。さらに、戦略を練ってそのIPをうまく活用し収益を得ているとなれば、金融機関などからの評価はより高くなるでしょう。
自社IPを活用してIPにまつわる戦略に取り組むデメリット・注意点
自社IPを活用してデジタルコンテンツのIP戦略に取り組むことには、デメリットも存在します。ここでは、自社IPを活用する主なデメリットを4つ解説します。
- 「当たる」コンテンツを生み出すことは容易ではない
- ファンを一から開拓する必要がある
- 知財の管理に手間とコストがかかる
- 海賊版への対応が必要となる
「当たる」コンテンツを生み出すことは容易ではない
1つ目は、「当たる」コンテンツの制作は容易ではないことです。
自社IPを活用する場合、これが「当たれば」、価値を最大化しやすくなります。自社IPを活用するにあたっては、他者にライセンス料などを支払う必要もないうえ、スピーディーな意思決定も可能であるためです。
その一方で、消費者の心をつかむコンテンツを制作することは、容易ではありません。「当たった」作品が生まれた背景では、消費者にさほど受け入れられず日の目を見られなかった多数の作品も存在することでしょう。
「当たる」コンテンツの制作は一朝一夕にできるものではなく、時間や労力など多大なリソースを投じる必要があります。
ファンを一から開拓する必要がある
2つ目は、ファンを一から開拓する必要があることです。
他者IPを活用する場合、すでにファンがついているコンテンツを活用できます。一方で、自社IPの場合には自力でファンを獲得しなければなりません。また、いったん得たファンが離れてしまわないよう、「ファンでい続けてもらうための工夫」も必要となるでしょう。
このように、自社IPを活用する場合にはファン層の開拓や育成、維持なども自力で行う必要が生じます。
知財の管理に手間とコストがかかる
3つ目は、知財の管理に手間やコストがかかることです。
漫画やゲームのタイトル、ロゴなどについて、商標登録を受けることが検討できます。特許庁に出願をして商標権を獲得することで、類似品が販売された場合に差止請求や損害賠償請求などの法的措置が可能となるためです。
自社IPの場合には自社が商標権者であることから、出願などの手続きも自社で行わなければなりません。また、商標権の有効期限は10年であり、その後も維持したい場合には更新手続きも必要です。さらに、商標権や著作権などを対象としたライセンス契約を締結している場合には、契約の管理なども必要となります。
このように、自社IPを活用する場合には知財の出願や管理なども必要となります。特にコンテンツの数が多い場合には知財の出願や管理を自社だけで行うことは容易ではないため、弁理士のサポートを受けるとよいでしょう。
海賊版への対応が必要となる
4つ目は、いわゆる「海賊版」への対応が必要となることです。
海賊版とは、コンテンツを無断でコピーして流通させた侵害コンテンツです。近年ではインターネットの普及に伴い、インターネット上での海賊版の流通に歯止めがかかりません。
海賊版が横行すれば、権利者が正当な収益を得る機会を逸してしまいます。また、海賊版を放置すれば、侵害行為がさらにエスカレートするおそれもあるでしょう。
自社IPを活用する場合、権利者である自社が海賊版などの侵害行為に対応する必要が生じます。
デジタルコンテンツのIP戦略を進める流れ
デジタルコンテンツのIP戦略を策定しようとする場合、どのような流れで進めればよいのでしょうか?ここでは、基本的な流れについて解説します。
- IPの戦略策定に強い専門家を見つける
- 自社の知財を棚卸しする
- 自社の将来展望や経営戦略を策定・確認する
- デジタルコンテンツのIP戦略を策定する
- IデジタルコンテンツのIP戦略を定期的に見直す
IPの戦略策定に強い専門家を見つける
デジタルコンテンツのIP戦略策定を、自社だけで的確に行うことは容易ではありません。そのため、まずはIPの戦略策定に強い専門家を見つけ、コンタクトをとることから始めるとよいでしょう。
相談先としては、戦略的思考に強い弁理士が適任です。弁理士は知的財産を専門とする国家資格であり、知財に関する戦略の策定段階からサポートを受けることができます。
自社の知財を棚卸しする
専門家とともに、自社の知財の棚卸しを行います。現状として自社がどのような知財を保有しているのかわからなければ、的確な戦略策定が困難であるためです。
棚卸しをした知財は一覧にまとめ、必要に応じて図表化すると全体像を把握しやすくなります。
自社の将来展望や経営戦略を策定・確認する
続けて、自社の将来展望や経営戦略を策定したり、見直したりします。
デジタルコンテンツのIP戦略は単独で成立するものではなく、経営戦略と表裏一体として効力を発揮するものです。経営戦略を実現する方策の1つに、デジタルコンテンツのIP戦略が存在するというイメージです。
そのため、デジタルコンテンツのIP戦略をいきなり練り始めるのではなく、これに先立って経営戦略の策定(または、見直し)をするとよいでしょう。
デジタルコンテンツのIP戦略を策定する
経営戦略が策定できたら、これに対応するデジタルコンテンツのIP戦略を策定します。IPコンテンツ戦略では既存のコンテンツの活用を検討するとともに、今後獲得を目指す知財についても落とし込むとよいでしょう。
デジタルコンテンツのIP戦略を定期的に見直す
デジタルコンテンツのIP戦略は、一度策定して終わりではありません。IPコンテンツにまつわる時代の流れは非常に速いため、定期的に見直して戦略を練り直すことをおすすめします。
定期的に見直すことで、その時期に合った最適な戦略がとりやすくなり、市場における自社の優位性を確保しやすくなります。
デジタルコンテンツのIP戦略を成功させるポイント
コンテンツ産業においてデジタルコンテンツのIP戦略を成功させるには、どのようなポイントを踏まえればよいのでしょうか?ここでは、デジタルコンテンツのIP戦略を成功に導くための主なポイントを2つ解説します。
- 戦略的思考を有する弁理士のサポートを受ける
- IPコンテンツ戦略は経営戦略と表裏一体であることを理解する
戦略的思考を有する弁理士のサポートを受ける
ポイントの1つ目は、戦略的思考を有する弁理士のサポートを受けることです。
デジタルコンテンツのIP戦略を的確に策定するには、知財に関する正しい理解が不可欠です。また、自社だけで検討した場合、自社の状況を客観的に把握することも容易ではないでしょう。
なお、弁理士であれば知財にまつわる知識は担保されている一方で、戦略的思考の有無は弁理士によって異なります。これは、弁理士試験などで容易に測れる能力ではないためです。そのため、単発での出願を依頼するのではなく、戦略の策定段階からのサポートを希望するのであれば、戦略的思考を有する弁理士を選んで依頼することをおすすめします。
とはいえ、ある弁理士が戦略的思考に強いか否かをインターネット上などで判断することは容易ではありません。そのため、デジタルコンテンツのIP戦略についてのサポートを希望するのであれば、手間はかかるもののまずは初回相談などで弁理士と直接話し、その弁理士の思考の流れなどを確認することをおすすめします。
IPコンテンツ戦略は経営戦略と表裏一体であることを理解する
ポイントの2つ目は、デジタルコンテンツのIP戦略は単体で機能するものではなく、経営戦略と両輪の位置づけであることを理解することです。
この点を理解せず、経営戦略と関連させることなくデジタルコンテンツのIP戦略を策定した場合、IP戦略と経営戦略が抵触する事態が生じ得ます。その結果、せっかく策定したIP戦略が絵に描いた餅となるおそれもあるでしょう。
知財はビジネスを成功に導くためのツールであり、経営と離れて機能するものではありません。デジタルコンテンツのIP戦略を策定する際は、この点を十分に意識しておくことをおすすめします。
デジタルコンテンツのIP戦略について弁理士ができる主なサポート内容
デジタルコンテンツのIP戦略について、弁理士へはどのようなサポートを依頼できるのでしょうか?最後に、弁理士に依頼できる主な事項を紹介します。
デジタルコンテンツのIP戦略の策定支援
弁理士へは、デジタルコンテンツのIP戦略の策定のサポートが依頼できます。
弁理士は知財のプロフェッショナルであり、知財を活かした戦略の策定にも対応できます。弁理士のサポートを受けることで的確な知財獲得が目指せるほか、自社の有するデジタルコンテンツのIP戦略の策定が可能となるでしょう。
出願前の調査
弁理士へは、出願前の調査を依頼できます。
コンテンツ産業では商標の出願をする機会が多いかと思います。しかし、商標は出願したからといって、必ず登録が受けられるものではありません。同一または類似の商品・サービスについて、同一または類似の商標がすでに他社によって出願されている場合、手間やコストをかけて出願をしたところで、自社は商標権を獲得することができません。
そこで、無駄な出願を避けるため、出願前に類似商標の調査をすることが検討できます。弁理士へは、この商標調査も依頼することが可能です。
なお、商標調査は出願前のみならず、新たに商標を使い始める際に行うこともあります。なぜなら、調査をしなかった場合、知らずに他者の商標権を侵害し、差止請求などの対象となるおそれがあるためです。
知的財産を権利化するための出願手続き
弁理士へは、商標登録出願など、知的財産を権利化するための出願手続きを依頼できます。
商標などの出願手続きは、時間をかければ自社でも行えるかもしれません。しかし、弁理士は単に書類の作成だけを担うのではなく、的確な出願内容をアドバイスする段階からのサポートが可能です。
特に、商標では保護を受ける商品・サービスの選定が必要であり、自社だけで的確な区分を選定することは容易ではないでしょう。弁理士へ出願手続きを依頼することで、漏れのない的確な知財の獲得を目指しやすくなります。
IPにまつわる契約書の作成・レビュー
弁理士へは、IP(知的財産)にまつわる契約書の作成やレビューを依頼できます。
知的財産は自社で利用するのみならず、他社にライセンスをして収益を得たり、他社に譲渡して対価を得たりすることも可能です。これとは反対に、自社が他社からIPのライセンスを受けたり、購入したりする場合もあるでしょう。
これらの場面では契約書を交わすこととなりますが、契約書に不備がないよう注意しなければなりません。契約書に不備があれば、自社のIPが思わぬ用途で使用されるなど不測の損失を被るおそれがあるほか、トラブル発生時にも的確な対応が取れないおそれがあるためです。弁理士にサポートを依頼することで、自社の目的に合わせた的確な契約書の作成が実現できます。
まとめ
デジタルコンテンツのIP戦略の概要や、IPコンテンツ戦略を成功させるポイントなどを解説しました。
コンテンツ作業においてIPは、事業の根幹ともいえる財産です。デジタルコンテンツのIP戦略を練ることで自社のIPを最大限活用でき、収益の最大化などを測りやすくなるでしょう。
とはいえ、的確なデジタルコンテンツのIP戦略を自社だけで策定することは容易ではありません。そのため、デジタルコンテンツのIP戦略の策定にあたっては、弁理士のサポートを受けるのがおすすめです。弁理士に依頼することで的確な戦略を策定しやすくなり、的確な知財獲得や知財の保護をはかりやすくなります。