
知財は「金融」に活かせる?金融に活かせる知財戦略策定のポイントを弁理士が解説
金融機関も企業の知的財産に着目する動きがあり、これを「知財金融」といいます。
では、知財金融とはどのようなものを指すのでしょうか?また、企業が金融面でもプラスとなる効果的な知財戦略を策定するには、どのようなポイントを踏まえればよいのでしょうか?
今回は、知財金融の基本を紹介するとともに、企業が知財戦略を構築するメリットや金融面でもプラスとなる知財戦略を構築するポイント、知財戦略構築のサポートを依頼する弁理士の選び方などについてくわしく解説します。
知財金融とは
知財金融とは、中小企業の知的財産(特許権や実用新案権、意匠権、商標権など)に着目し、金融機関が経営支援を行うものです。特許庁が公表している資料「知財金融スタートガイド」では、次のように説明されています。
- 知財金融とは、金融機関が中小企業の知財に着目して事業や経営の支援を行うものです。取引先企業の知恵や工夫を中心とした経営資源を理解し、知財活用の視点から提案・支援を行います。この活動によって、中小企業における将来構想の実現や経営課題の解決に繋がることが期待されています。
主に金融機関へ向けた用語であるものの、企業側もこの用語と概要を理解しておくことで、自社の知財戦略を策定する際の参考となるでしょう。
金融機関が知財に着目すべきとされる理由
先ほど紹介した資料「知財金融スタートガイド」では、金融機関が企業の知的財産に着目すべき理由が挙げられています。企業としてもこれを理解しておくことで、金融機関との円滑なコミュニケーションにつながるでしょう。
ここでは、金融機関が企業の知財に着目すべきとされる主な理由を3つ解説します。
- 知財金融は、事業性評価・経営分析との親和性が高いから
- 知財の状況から企業の経営課題が見えやすいから
- 企業の「見えない強み」に気付きやすくなるから
知財金融は、事業性評価・経営分析との親和性が高いから
1つ目は、知的財産と事業性評価・経営分析との親和性が高いことです。
企業が有する知的財産は、企業が有する強みを色濃く反映するものです。なかでも特許権は、通常の事業性評価や経営分析だけでは把握が難しい技術分析を補完する情報となり得ます。
そのため、金融機関が知的財産に着目することでその企業の情報に厚みが生まれ、より効果的な経営支援策を提案しやすくなります。
知財の状況から企業の経営課題が見えやすいから
2つ目は、知的財産の獲得状況などから、その企業の経営課題が見えやすくなることです。
知的財産の獲得状況から、企業のライフステージや経営課題を垣間見ることができます。金融機関が知的財産に着目することで企業の状況や課題を深掘りしやすくなり、ライフステージや課題に合った提案をしやすくなります。
企業の「見えない強み」に気付きやすくなるから
3つ目は、企業の「見えない強み」が見えやすくなることです。
従来、金融機関は企業の目に見えやすい強み(固定資産の保有状況など)に着目してきました。これに加え、無形資産である知的財産に着目することで、企業の見えない強みに気付きやすくなります。
知的財産の中には、将来の収益の種となるものも少なくありません。金融機関が企業の知的財産に着目することで、決算書類などだけでは分からない将来の成長可能性が把握しやすくなります。
企業が知財戦略を練る金融面での主なメリット
企業が知財戦略を策定することは、金融面にも多くのメリットがあります。知財戦略とは知財にまつわる企業の戦略であり、経営戦略に沿って策定するものです。ここでは、金融面から見た知財戦略策定のメリットを2つ解説します。
- 融資においてプラスとなる可能性がある
- 金融機関から積極的な支援が受けられる可能性がある
融資においてプラスとなる可能性がある
1つ目は、融資においてプラスとなる可能性があることです。
知的財産は企業の重要な資産であり、企業の「儲けの種」となり得るものです。そのため、金融機関から融資を受ける際に加味されることも少なくありません。特に、自社の強みや経営戦略を裏付ける知的財産を有している場合には、金融機関からプラスの評価を受けやすいでしょう。
知財戦略を構築することで自社の価値を向上させる価値の高い知的財産を獲得しやすくなり、融資において加点がされやすくなります。
金融機関から積極的な支援が受けられる可能性がある
2つ目は、金融機関から積極的な支援を受けられる可能性が生じることです。
先ほど解説した「金融機関が知財に着目すべきとされる理由」からもわかるように、金融機関は企業のステージや課題に合った効果的な提案をしたいと考えています。これにより融資先である企業が成長すれば、金融機関としても大口の融資による収益を得やすくなるためです。
経営戦略と連動した効果的な知財戦略を構築してこれに取り組んでいる企業は、金融機関から将来の成長が見込まれやすくなります。その結果、金融機関から、企業のステージに合った積極的な支援を受けやすくなるでしょう。
企業が知財戦略を練る金融面以外のメリット
企業が知財戦略を策定することには、金融面以外でも多くのメリットがあります。ここでは、金融面以外での知財戦略の主なメリットを3つ解説します。
- 自社の競争力を高められる
- 効果的で漏れのない知財獲得を目指せる
- ライセンスなどによる収益拡大が見込まれる
自社の競争力を高められる
企業が知財戦略を策定することで、自社の競争力を高める効果が期待できます。
そもそも、ビジネスという他社との戦いに勝つためには、戦略の存在は不可欠です。戦略もないままに丸腰で戦いに挑むことは、無謀と言わざるを得ないでしょう。
知財戦略は知財面での戦略であり、経営戦略を補完する役割を担います。知財戦略を策定し、自社が「勝つ」ために必要な知的財産を効率的に獲得していくことで、自社の競争力を高めることが可能となります。
効果的で漏れのない知財獲得を目指せる
知財戦略を構築することで、漏れのない的確な知財の獲得が目指せます。
知財戦略がない場合、知的財産権の獲得が行き当たりばったりなものとなりかねません。その結果、獲得できたはずの権利を逃したり、獲得した権利に穴が生じたりしやすくなります。また、自社にとって価値の低い知的財産を得てしまい、維持のために無駄なコストがかかるリスクもあるでしょう。
知財戦略を練る場合、企業が目指すべき地点から全体を見通したうえで、そこから逆算をして必要な権利獲得を目指すこととなります。戦略を練ることなく行き当たりばったりで敵地に攻め込めば、返り討ちに合う可能性が高いためです。
これはビジネスという戦いにおいても同様であり、より大きな市場を獲得し自社の優位性を図るためには、戦略の策定が不可欠といえます。知財戦略を構築することで自社が獲得すべき権利が明確となり、漏れのない的確な権利取得を目指しやすくなります。
ライセンスなどによる収益拡大が見込まれる
知財戦略を構築し効果的な知的財産を獲得することで、ライセンスなどによる収益の拡大が可能となります。
知財戦略を構築することで、漏れのない知的財産網を構築しやすくなります。この場合において、他社がその分野に進出しようとすれば、自社からライセンスを受けるほかありません。
そのため、ライセンスによる収益機会の獲得が目指しやすくなります。特に、その分野において回避困難な特許権などを獲得できた場合、ライセンスだけでも多額の収益が得られる可能性が高くなるでしょう。
金融にも活かせる効果的な知財戦略を練るポイント
経営戦略に1つの正解がないように、知財戦略にも明確な正解はありません。そうであるからこそ、知財戦略は慎重に策定すべきです。
知財戦略自体に重大な欠陥があれば、その知財戦略を実行したところで企業がビジネスに勝つことはできず、むしろ負ける要因とさえなりかねません。また、「知財戦略など無意味だ」という誤った認識の原因となるおそれもあり、その後の企業成長の妨げとなるおそれもあるでしょう。
では、効果的な知財戦略を練るには、どのようなポイントを踏まえればよいのでしょうか?ここでは、金融にも活かせる効果的な知財戦略を構築する主なポイントについて解説します。
- 自社の経営戦略と一体となる知財戦略を策定する
- 価値の高い知財獲得を目指す
- 専門家のサポートを受ける
自社の経営戦略と一体となる知財戦略を策定する
ポイントの1つ目は、自社の経営戦略と一体となる知財戦略を策定することです。
経営戦略と知財戦略は独立したものではなく、知財戦略は経営戦略を強化する位置づけにあるものです。これらが的確にリンクしているほど、自社の強みとなる知的財産を効果的に獲得しやすくなります。
反対に、経営戦略がないままに知財戦略を構築しても、これは「仏作って魂入れず」となりかねません。また、経営戦略と知財戦略がリンクしていなければ、自社の強化につながらない無用な取り組みをするおそれさえ生じるでしょう。
価値の高い知財獲得を目指す
ポイントの2つ目は、価値の高い知的財産権の獲得を目指すことです。
知的財産権は、単に「多く取得すればよい」というものではありません。知的財産権を維持するには更新費用や特許年金などの支払いが必要であり、保有しているだけでもコストがかかるためです。
価値の高い知的財産権であれば、自社で実施できるほか他社にライセンスしたり譲渡したりすることで収益を得ることも可能であるため、積極的な獲得を目指すとよいでしょう。
一方で、使い勝手の悪い知的財産権は、価値が低いどころか、事実上マイナスとさえなり得るということです。知財戦略は、この点も踏まえて慎重に構築するべきでしょう。
なお、権利の価値は出願内容によって大きく変動し得る点には注意が必要です。
たとえば、ある発明について特許出願をする場合、特許請求の範囲に無駄な限定を入れて権利範囲を狭め過ぎると、せっかくの特許が価値の低いものとなりかねません。その反面、特許請求の範囲を広くし過ぎれば他の権利と抵触する可能性が高くなり、権利を獲得できないリスクが高くなります。
同様に、商標権は保護を受けたい商品・サービスの区分を指定して出願するものであるところ、必要な区分に漏れがあれば自社の権利を適切に保護することができません。その反面、多数の区分をむやみに指定すれば、出願や維持に多大なコストを要します。
このように、出願のテクニックによって権利の価値が変動することは少なくありません。そのため、実際に知的財産の出願をする場面においても権利を得ることだけを意識するのではなく、権利の価値を高めることも意識すべきでしょう。
専門家のサポートを受ける
ポイントの3つ目は、知財に強い専門家のサポートを受けることです。
自社の経営戦略とリンクした的確な知財戦略を構築するには、戦略的思考のほか、知的財産権や出願手続きに関する深い理解が不可欠です。そのため、自社だけで的確な知財戦略を練ることは、容易ではないでしょう。
そのため、知財戦略の構築にあたっては、専門家のサポートを受けることをおすすめします。なかでも、弁理士は知的財産を専門とする国家資格者であり、知財戦略構築のパートナーとして適任でしょう。なお、弁理士は特許や商標、意匠などの出願にあたって代理人となることができ、出願手続きを任せることも可能です。
金融面でもプラスとなる知財戦略の策定を依頼する弁理士の選定基準
弁理士は、知的財産に関する専門家です。そのため、特許権や意匠権、実用新案権、商標権などの知的財産についての高度な知識を有することは担保されています。
その一方で、弁理士であるからといって必ずしも知財戦略の策定に強いとは限りません。では、知財戦略の策定サポートを依頼する弁理士は、どのような基準で選べばよいのでしょうか?最後に、知財戦略の策定を依頼する弁理士を選ぶ際に重視すべき主なポイントについて解説します。
- 知財戦略の策定実績が豊富であること
- 戦略的思考を有していること
- 自社の成長をともに目指してくれること
知財戦略の策定実績が豊富であること
知財戦略の策定支援を依頼する際は、知財戦略の策定実績が豊富な弁理士を選ぶことをおすすめします。弁理士は、本来特許出願等の代理を行う専門家であり、特許明細書等を作成することが本来の業務です。
もちろん、多くの弁理士は、企業様の相談を受けることが多く、さまざまな側面からアドバイスを行います。しかし、弁理士と言えども「戦略・戦術」に業務上接する機会は比較的少ないため、すべての弁理士が「知財戦略」の立案に精通しているわけではありません。これは業務の性質上やむを得ないことなのです。
ホームページなどを参照しても、弁理士の素養を十分に把握することができないのは当然ですが、何も手がかりがない以上は、Webの情報を活用して弁理士の属性を少しでも把握することが望まれます。できれば、関連企業や知人の企業の担当者から、この点に明るい弁理士の紹介を受けることも有効です。
ただし、特許事務所の評判が良くても、自社を担当する弁理士が知財戦略の策定実績が豊富であるかどうかは別問題ですので、この点は注意することが望まれます。
また、初回の相談時などに、サポート実績などを直接尋ねることも一つの方法です。サポート実績に自信があれば、守秘義務に反しない範囲でサポートした件数などを回答してくれるはずです。
戦略的思考を有していること
効果的な知財戦略の策定には、戦略的思考が不可欠です。知財に関する知識が豊富であっても、的確な戦略を構築できるとは限りません。
戦略的思考は定性的に測れるものではないため、見極めるためには弁理士と直接対話をしたうえで、弁理士の思考のロジックなどを確認する必要があります。単発での初回相談は安価であることが多いため、まずはこの機会を使って弁理士と対話し、弁理士の力量を見極めるとよいでしょう。
自社の成長をともに目指してくれること
見落としがちではあるものの非常に重要な視点として、自社の成長をともに目指してくれることが挙げられます。何かのトラブルがあったときに自社に責任を押しつけるのではなく、弁理士自身が「覚悟」を持って業務に邁進してくれることが大切です。
知財戦略は、一度策定して終わりではありません。世の中は絶えず流れており、技術のトレンドなども日々変化しています。
また、はじめから完璧な知財戦略を練ることは現実的ではなく、むしろ初期の戦略に固執すればチャンスを逃すことにもなりかねません。そのため、知財戦略は定期的、また必要に応じて臨時に見直す必要があります。
このような前提から、知財戦略についてサポートを依頼する弁理士とはその場だけの付き合いではなく、経営に伴走してもらうのがベストです。
知財をうまくビジネスに活かしている企業には、「町医者」のように適宜相談できる弁理士がついていることも少なくありません。そのような弁理士と出会うことができれば、自社の知財レベルを格段に高めることが可能となるでしょう。
まとめ
金融知財の概要や金融機関が金融知財に取り組むべきメリットを紹介するとともに、金融面でもプラスとなる知財戦略を策定するポイントなどを解説しました。
金融知財とは、金融機関が企業の知的財産に着目して経営支援を行うものです。企業としては、経営戦略に即した的確な知財戦略を構築することで、金融面でもプラスとなる効果が期待できます。
金融面以外にも、企業が知財戦略を策定するメリットは少なくありません。たとえば、自社の競争力を高められることや、効果的で漏れのない知財獲得を目指せることなどが挙げられます。
効果的な知財戦略を策定するには、経営戦略との連動を意識するほか、戦略的思考を有する弁理士にサポートを受けることをおすすめします。戦略的思考を有する弁理士に長期的に伴走してもらうことで、知財に関する自社のレベルを大きく飛躍させることにつながるでしょう。