弁理士としての技能を活かして経営戦略にも積極参加へ。相川俊彦氏が目指す弁理士の未来とは?
INTERVIEWEE
オリオン国際特許事務所・池袋事務所 弁理士
相川俊彦
1981年(昭和56年)京都大学工学部工業化学学科卒
1983年(昭和58年)京都大学工学研究課工業化学専攻修士修了
1983年(昭和58年)日産自動車株式会社勤務 総合研究所
1992年(平成4年)米国ジョージア州ジョージア工科大学機械工学科博士課程修了(Ph.D.)
1997年(平成9年)弁理士試験合格 登録番号(11170)
1998年(平成10年)米国ジョージア州 知的財産権専門の法律事務所勤務
2001年(平成13年)AIG株式会社勤務 知的財産権オフィサー
2002年(平成14年)正林国際特許事務所勤務
2005年(平成17年)オリオン国際特許事務所 池袋事務所開設
弁理士とは:弁護士や税理士、行政書士と同じく、八士業に分類される職業の一つ。知的財産(知財)のスペシャリストとして「特許権」「実用新案権」「意匠権」「商標権」を取得したいクライアントのために、特許庁への手続きを代理で行うことを主な仕事とする。知財の取得だけでなく、模倣品などのトラブルに関する相談も受け付けている。
特許権:程度の高い発明、技術的アイデア(例:歌唱音声の合成技術など)
実用新案権:発明ほど高度ではない小発明(例:鉛筆を握りやすい六角形にするなど)
意匠権:物や建築物、画像のデザイン(例:立体的なマスクなど)
商標権:商品またはサービスを表す文字やマークなど(例:会社のロゴなど)
オリオン国際特許事務所・池袋事務所の弁理士・相川俊彦氏は、大学及び大学院で工業化学を学んで日産自動車へ入社してセラミックの研究に従事。アメリカ留学(機械工学博士課程)を経て弁理士の資格を取得した。
専門は「化学」と「機械」等で、知財の専門家として、積極的に経営にもかかわっていきたいと話す。相川氏が弁理士にどんな未来を感じているのか、話をうかがった。

専門は「化学」と「機械」。日産自動車ではセラミックの研究に従事してアメリカ留学も経験
—【聞き手:松嶋、以下:松嶋】はじめに自己紹介をお願いいたします。
—【話し手:相川俊彦氏、以下:相川】オリオン国際特許事務所の池袋事務所で仕事をしています。こじんまりとした感じの事務所ですね。オリオン国際特許事務所は相模原と大森にも事務所があります。仕事は特許等が中心で、専門は「化学」及び「機械」です。
—【松嶋】専門としている「化学」と「機械」の中でも、特に多く手掛けている分野はどんなものですか?
—【相川】現在のところ、セラミックスが多いですね。材料分野は日本が強いんですよ。アメリカ特許出願においても、日本又は日本人の特許又は非特許文献を引いて拒絶理由をされることが多いのですが、最近は中国の特許文献も引かれることが多い印象があります。
—【松嶋】もう少し詳しく教えて下さい。大学生の時は最初に何を学ばれて、その後は、どんな仕事をしていたのですか?
—【相川】工学部工業化学科を卒業し、大学院(修士)修了後、日産自動車に入社しました。当時はセラミックターボチャージャーが熱く、その研究をしていました。その後、アメリカ留学し、帰国後は、トライボロジーの研究・開発を行っていました。弁理士試験に合格し、家庭の事情でアメリカへ戻ることにしたのですが、会社から派遣される可能性がなかったので、退社しました。そして、アメリカの知的財産権専門の法律事務所で働くことになりました。
—【松嶋】アメリカには何年間いられたのですか?
—【相川】3年間です。その後、帰国し、日本の企業に知財オフィサーとして就職しました。次に、中堅どころの特許事務所に入りました。勤務弁理士を3年間経験した後、オリオン国際特許事務所の池袋事務所を作り、現在に至ります。
—【松嶋】実用新案も手掛けているとのことですが、特許との違いについて教えて下さい。
—【相川】対象が物品であること、実体審査をしないことが大きな違いです。実用新案登録出願は、形式さえ整っていれば基本的には登録になります。特許の場合は、実体審査がされているので、そのまま権利行使ができます。しかし、実用新案権は、技術評価書を取得し、それに基づいて権利行使する必要があります。私の個人的な考え方ですが、実用新案権は、何も知らない人には、威圧的に使えるかもしれません。一方、実体審査能力が審査官よりも優れていると考える者にとっては、早期に独占権が得られる制度とも言えます。審査官による技術評価は既に織り込み済みという訳です。

弁理士は理系の人間が会社に属さずに、独立して仕事ができる資格
—【松嶋】資格の中でも、特に弁理士を選んだ理由は?
—【相川】弁理士試験を受けていた当時は、会社も大変厳しい状態だったので、リストラも行われていました。同僚の中には付加価値を付けようとする方もいらっしゃいました。理系の方が目指す資格の中で弁理士は魅力的に見えました。どんな大きな会社でもどうなるかわからないような現在においても、手に職があればと皆さん思いますよね。
—【松嶋】弁理士の仕事は、実は理系の方が多く活躍されていますよね。
—【相川】弁理士の80%が理系だと言われています。結局、特許は、技術の話ですので、技術内容の本質を理解することが重要です。
—【松嶋】弁理士のやりがい、楽しさをどう感じていますか?
—【相川】お仕事をさせていただいた企業様のビジネスが特許によりうまいったら、うれしいです。現在、会社の価値は、保有する知的財産権によって大きく異なると言われていますので、知財をうまく使うことで、会社が前に進むのに役立つと感じられたら、面白いと思います。
例えば、Apple社は、株価は高いですが、あまり有形資産を持っていません。しかし、技術等の無形資産に期待され、大きく成長すると考えられてているからだと思います。かつて、企業は人なりと言われており、人材が企業価値のように思われていました。ただ、現在は、転職者も多く、人の出入りを制限することもできません。そこで、人材だけでなく、無形資産として知的財産が注目されていると思います。工場で物を作ること自体ではなく、物を作らせるための技術やノウハウが、大きな財産となると考えています。有形資産が少ないと、利益率も高くなると考えられます。

“下請け”のポジションに収まるのではなく、企業戦略にも積極的に携わる
—【松嶋】ちなみに、弁理士という資格に課題を感じたりすることはありますか?
—【相川】一般に、資格試験はよくできており、合格者はその業務を遂行することが比較的容易となります。しかしこれからの弁理士の業務を考えると弁理士試験には2つ課題があると思っています。1つは企業経営を支援できるような能力を付けるための問題がこの資格試験には含まれていないことです。もう1つは英語の能力を付けるための問題がこの資格試験には含まれていないことです。知的財産権は、非常に狭い分野なのですが、世界中に広がり易く、海外で知的財産権を扱うには英語の能力は必要だと思います。従って、弁理士試験に合格しただけでは、これからの弁理士の業務を行うのは容易ではないと思います。
—【松嶋】あらためて研究職時代と現在では、どのような違いを感じていますか?
—【相川】企業の研究部門では、目利きが重要だと思います。所定の期間、所定の予算で、目論見以上の成果が出るテーマを選定するのが、重要ですが、なかなか難しいと思います。自分自身はそのような能力はありませんでした。弁理士は、これまで特許権等を取得することが重要でしたが、これからは、更に一歩踏み込む必要があるかもしれません。クライアント企業様に、提案ができる弁理士が理想であると思います。企業価値において、知的財産権を“見える化”するお手伝いができればと思います。
中小企業やスタートアップ企業においては、“アイデア”が会社を引っ張っていくこともあるかと思います。その際に、知財の管理や、知財の観点からの会社のビジネスモデルは重要であり、強い関心があります。
—【松嶋】今後、企業は知的財産を有効活用していく場面は、もっと多くなりそうですね。
—【相川】そうですね。所有する知的財産からその企業が注力すべき方向性を探ったり、逆に、企業の向かうべき方向に必要な知的財産を明らかにし、それを取得するための方法を提案することもできるかもしれません。例えば、M&Aのような企業戦略における知的財産の割合が高くなれば、弁理士が活用されることも多くなると期待します。

KEYPERSONの素顔に迫る19問
Q1. 好きな漫画は?
最近はあまり読まなくなりました。昔は『おれは鉄兵』を読んでいました。少女漫画では『ガラスの仮面』です。
Q2. 人情派? 理論派?
どちらかと言えば理論派です。
Q3. パン派ですか? ライス派ですか?
ライスです。
Q4. 都会と田舎のどちらが好きですか?
私は岐阜県の田舎出身なのですが、都会の方がいいかな。
Q5. 好きなミュージシャンは?
最近は、あいみょんかな。ざっくばらんな話し方をしますよね。昔はフォークソングが好きでした。
Q6. これまでに仕事でやらかした一番の失敗は何ですか?
うーん、なんとかギリギリセーフでやってきました。
Q7. 犬派? 猫派?
犬派ですね。犬の方が好きです。猫はどっかに行ってしまいそうなので。
Q8. 現実派? 夢見がち?
まあ、現実派だと思います。
Q9. 今、一番会いたい人は?
歴史上の人物になりますが、豊臣秀吉です。いったいどんな人だったのか興味があります。
Q10. 仕事道具でこだわっているのは?
こだわりというほど、こだわっているものはないかもしれません。肌身離さず持っているのは、鞄くらいですかね。
Q11. どんな人と一緒に仕事したいですか?
信頼できる人です。
Q12. 社会人になって一番心に残っている言葉は?
上杉鷹山の言葉である「為せば成る、為さねば成らぬ、何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」です。
Q13. 休日の過ごし方は?
休日はあまりないかもしれません。働けるときは働いています。
Q14. 好きな国はどこですか?
アメリカが大好きです。アメリカ人のちょっといい加減なところもいいですよね。
Q15. 仕事の中で一番燃える瞬間は?
締め切り間際です。
Q16. 息抜き方法は?
ジムに行っています。
Q17. 好きなサービスやアプリは?
バックグラウンドで音楽を流したい時などに、YouTubeを使います。
Q18. 学んでみたいことは?
会社の経営です。
Q19. 最後に一言
知財は今後、すごく重要になってくるはずです。企業の価値を考える時は知財に注目してほしいです。

知財の価値や特許を熟知している弁理士として企業を支える
—【松嶋】今後はどんな方向に進みたいと考えていますか?
—【相川】中小企業への支援を通じて、事業のあるべき姿を探したいと思います。また、ブランディング関係も手掛けてみたいです。また、東南アジア等、海外への進出にも興味を持っています。弁理士という枠にとらわれることなく、色々と学びながら成長していきたいと思います。
—【松嶋】お話を聞いていますと、企業がどうやって知的財産を活かしていくかに、興味があると感じました。
—【相川】そうですね。これまでの弁理士のように“下請け”的な働きも、もちろんしますが、もう少しクロスオーバーな働き方を目指したいと思います。近年、特許出願件数が減少傾向にあり、今後、多くの弁理士が活躍の場を広げなければならないと思っています。
【クレジット】
取材・構成/松嶋活智 撮影/原哲也 企画/大芝義信