発明推進協会で働く小山和美が考える、モノづくりの国・日本だからこそ「知財が重要」な理由とは?
INTERVIEWEE
発明推進協会 知的財産情報サービスグループ 部長
小山和美
一般社団法人発明協会に入社、つくばの科学万博支援事業、科学の夢絵画展運営事務局、少年少女発明クラブ運営事業、発明協会100周年記念事業などを経験。その後、発明協会は、公益法人改革により、公益事業を行う発明協会と収益事業を行う発明推進協会に分かれている。現在は、主に発明推進協会で社会人向け知財研修事業や出版事業の運営を担当している。
科学技術の発展・進歩に貢献するべく、明治37年に設立された工業所有権保護協会。平成24年に改組され「公益社団法人発明協会」および「一般社団法人発明推進協会」が発足した。
後者の発明推進協会、知的財産情報サービスグループは、知財人材育成を任されており、知財に関する情報発信も重要と考えている。同グループの部長として、知財のプロモーション活動に力を入れているのが小山和美氏だ。
「日本は知財をもっと活用しなくてはいけない」と語る小山氏に、知財の重要性について話を伺った。

時代の変化をキャッチしつつ、知財の情報を発信
—【聞き手:松嶋、以下:松嶋】自己紹介をお願いします。
—【話し手:小山 和美氏、以下:小山】一般社団法人発明推進協会(以下、発明推進協会)で知的財産情報サービスグループの部長をしている、小山和美と申します。
—【松嶋】発明推進協会とはどのような組織なのでしょうか?
—【小山】発明推進協会は、知財に関する人材育成を担っている団体です。特許庁と協力して教育機関に知財の専門家を派遣したり、研修を企画したりすることもあります。
なお、発明推進協会とセットのような存在である公益社団法人発明協会(以下、発明協会)では、表彰事業などを通して発明を奨励する事業を行っています。二つの組織が協力し合い、知財を通して日本の技術や産業の発展を支援しています。
—【松嶋】知的財産情報サービスグループとしては、どのような仕事をされているのですか?
—【小山】私たちのグループでは、企業のニーズに合わせて出願戦略に関する講演・研修の企画や運営を担当しているほか、知財に関する本も出版しております。
登壇や執筆を外部の方にご依頼することが多いため、“専門家の先生たちとのつながり”を持っておくことが、仕事をする上でとても重要となってきます。
—【松嶋】外部の専門家と密に関わるグループでもあるのですね。
—【小山】そうですね。また特許の制度は、企業からの要望を受けて毎年のように変わっていくものでもあります。そのため「企業の知財部の方々が現在話題にしているものは何か」を把握するために、そういった方々が集まる会合などにも参加するようにしています。
—【松嶋】研修でいうと「教える側」と「教わる側」の双方とつながりを持っておく必要があると。
—【小山】ええ。知財の業界で活躍されている方々が何を求めているのか、彼らのニーズをキャッチするとともに、業界全体の動きを把握できるようにアンテナを張り巡らせることを意識しています。
—【松嶋】変化に対応するためには、最新の情報をキャッチアップするスキルが求められますよね。
—【小山】そうですね。時代の変化に合わせた情報提供をするのも私たちの役目です。最近はAIで特許明細書を書くことも増えてきていますし、実務でAIを活用するための方法を紹介する書籍を出版したこともあります。そのほか、子どもたち向けの教材なども作っています。

子どもたちの発想力を育む少年少女発明クラブ
—【松嶋】小山さんはずっと知的財産情報サービスグループで仕事をされているのですか?
—【小山】いいえ。入職後は総務にいました。しばらくしてから役員の秘書をするようになり、そのあとは「少年少女発明クラブ」を担当していました。
—【松嶋】少年少女発明クラブとは、どのようなものなのでしょうか?
—【小山】発明協会が全国211ヶ所に展開している発明クラブです。月に2〜3回ほどのペースで、小学校3年生〜中学生の子どもたちが集まって創作しています。キットを提供してみんなで同じものを作るのではなく、それぞれのアイデアを生かして「自分や周囲が必要としているもの」を作っているのが特徴です。
発明協会の設立記念事業として誕生したもので、発案者は当時の会長だったソニー創業者の井深大さんです。井深さんが「子どもたち向けのクラブを作ろう」とお声がけをして、様々な企業にご協力いただいて活動が始まりました。
—【松嶋】作るものがそれぞれに異なるとなると、運営側は大変なのではないですか。
—【小山】そうですね。各クラブによって実情は異なるのですが、子どもたちに自分で設計図を書いてもらうところから始めるクラブもあります。次にそれを作るための材料を書き出して、それを組み立てていくと。
設計図ができるまでは何を作るかがわからないため、運営する側はさまざまな材料を用意する必要があるそうです。運営する上での苦労はあると思いますが、子どもたちはとても楽しみながら創作してくれていると聞いています。
—【松嶋】子どもたちにとっては、モノづくりにおける創意工夫を体験できる活動なのですね。
—【小山】ええ。発明クラブは、モノづくりの原点に触れられる活動だと思っています。発明クラブで創作を楽しんでいた子どもたちが、ゆくゆくは研究者として日本を支えるような存在になってくれたらいいな、という思いで私たちも活動を支援しています。

安定した職を求めて辿り着いた、刺激的かつ面白い仕事
—【松嶋】先ほども少し触れましたが、改めて小山さんの過去についてもお伺いさせてください。小山さんはいつから発明推進協会で働かれているのですか?
—【小山】私は新卒で発明推進協会に入職しています。私が学生のころは「女性は短大の方が就職に有利だ」と言われていた時代で、私も短大に通っていました。短大に通いながら学生アルバイトとして社団法人で働くようになり、公益性のある事業に携われる環境に魅力を感じたため、社団法人を目指すことにしたのです。
—【松嶋】新卒で社団法人を目指す人は珍しいように思います。
—【小山】そうですね。私は子どものころに父が経営していた工場がオイルショックで倒産するのを見ていたこともあり、長く働き続けられる場所を探していました。「社団法人であれば、一般企業よりも倒産の心配はないだろう」という考えもありましたね。
当時は2~3社ほどしか試験を受けられない時代だったため、自由選択で全国農業協同組合連合会を受け、学校推薦で発明推進協会を受けて、どちらも合格し後者を選びました。
—【松嶋】なぜ発明推進協会を選ばれたのですか?
—【小山】「ここは絶対に倒産しないだろう」と思えたからです。というのも、当時は発明推進協会が特許公報(※)の販売を独占していたのですよ。現在はインターネット経由で無料で見られるのですが、以前は発明推進協会が特許庁からもらった特許公報をコピーして、各社に販売するスタイルでした。
A社が出願した特許の情報はA社に保管されていますが、特許庁に認められた情報は特許公報で確認するしかないため、A社は必ず購入してくれます。A社のライバル企業も特許情報を把握する必要があるため、購入してくれると。つまり、発明推進協会では“100%売れる商品”を扱っていたのです。しかも、ターゲットは日本のモノづくりを行っている会社全てです。そのため、発明推進協会は長く働き続けられる場所だと確信を持っていました。
—【松嶋】実際に入職して、いかがでしたか?
—【小山】知財はとても面白い業界だなと思いました。インターネットが普及して、特許公報を無料で見られるようになるのは予想外でしたが(笑)。そのおかげでいろんなことに挑戦できるようになりました。
—【松嶋】確かに、小山さんはバイタリティあふれる方という印象があります。
—【小山】最初は安定した職を求めていたはずなのですが、気がついたら、いろんな仕事をさせていただいていましたね(笑)。そもそも、発明推進協会そのものが刺激的な場所なのだと思います。
というのも、私が役員秘書をしていた当時は井深さんが会長で、その少し前はパナソニック創業者の松下幸之助さんでした。会長だけでなく、副会長や理事の方々を見ても、錚々たる面々が揃っています。それに、地方に行けば、その土地の名士や地域を支えておられる企業の経営者や創業者とお話しする機会もあります。
そういった方々と密にコミュニケーションをとりながら仕事ができるなんて、本当に光栄なことですよね。お話を聞いているだけで勉強になることが多いですし、非常に面白い仕事だと思います。
—【松嶋】まさに、他では経験できない仕事ですよね。
—【小山】ええ。その時にできた経験、培った人脈は、本当に貴重なものだと思います。
あと人脈という言葉で思い出したのが、先ほどご紹介した少年少女発明クラブですね。役員秘書をしていた時に知り合った方から「うちの地元にも少年少女発明クラブを作ってほしい」とお声がけいただいて、声をかけてくださった方と一緒にその地域の教育長に相談をしたり、運営のための資金を調達したり……。人脈があれば、活動を広げていけるのだなと改めて感じた出来事でした。
※…特許権が成立した特許の情報を公開する官報

モノづくりの国だからこそ、知財の重要性を広めたい
—【松嶋】仕事をする上で、どのような時にやりがいを感じますか?
—【小山】企業が知財を活用して成長していく姿を見ることができたときです。
特許を活用して業績を伸ばしているのは、大きな会社だけではありません。かっぱ橋道具街にある食品機械の製造会社を例にあげると、その会社は小さな町工場から始まりました。そして、独自に開発した技術で特許を取得して業績を伸ばし、現在は社員数も大幅に増加し、日本を代表する大企業をクライアントに持つ中小企業に成長しています。
—【松嶋】知財を活用するとなると大企業をイメージしがちですが、中小企業でも活用している事例があるのですね。
—【小山】ええ。もっと言うと、その会社が熟練のあんこ職人の手業を機械で再現することに成功したおかげで、格式高い老舗の和菓子店の知名度を上げ、日本人なら誰もが知っている有名店に押しあげたのです。
—【松嶋】一つの会社の成長が、別の会社の発展にもつながっていると。
—【小山】ええ。町工場からスタートした小さな会社が、知財を活用して自社の業績を向上するとともに、クライアント、ひいては業界の発展にも貢献している。本当に素晴らしいサイクルですよね。
—【松嶋】そういった話があまり知られていないというのは、もったいないように感じますね。
—【小山】そうですね。例としてお話した会社以外にも、自社の技術を特許として活用し、頑張っている中小企業はたくさんあります。
ただ、日本では知財の重要性が知られていないという、大きな課題があります。欧米では企業の知財部は経営に直結するとして非常に格の高い部署だと認識されているのですが、日本の場合は「縁の下の力持ち的な存在」だと思われているのも事実です。
最近では特許の取得数が株式を評価する際の尺度の一つになっていると聞いていますし、日本でも少しずつ知財の重要性が知られてきているとは思うのですが……。
—【松嶋】欧米の場合は、知財を活用しないことはリスクだとも考えられていますよね。
—【小山】特許を目的とした買収も珍しくありませんしね。
日本はモノづくりに強く、技術を大切にしている国です。だからこそ、知財をもっと活用しなくてはいけない。そのためにも、知財を活用した成功事例を、多くの人に広めていきたいと考えています。

KEYPERSONの素顔に迫る20問
Q1. 出身地は?
埼玉県上尾市です。
Q2. 趣味は?
茶道です。会社に茶道部があり、憧れの方がその部活に入っていたので、自分もやってみようと思い習い始めました。
Q3. 特技は?
特技というと少し違うのかもしれませんが、歌うことが好きで、声楽の個人レッスンを受けています。
Q4. カラオケの十八番は?
カラオケに行くことがなく、十八番はありません。
Q5. よく見るYouTubeは?
猫の動画をよく観ています。
Q6. 座右の銘は?
「鶏口となるとも牛後となるなかれ」。強い勢力のあるものにつき従うより、たとえ小さくても独立したものの頭(かしら)となれ、という意味のことわざです。
Q7. 幸せを感じる瞬間は?
応援しているアイドルのライブに行くこと。長年嵐のファンクラブに入っているのですが、活動休止中だということもあり、現在は彼らの後輩にあたるSixTONESのライブに行くのを心の糧にしています。
Q8. 今の仕事以外を選ぶとしたら?
ラジオのパーソナリティです。声を使った仕事をしてみたかったなと思うことがあります。
Q9. 好きな漫画は?
『三丁目の夕日』です。
Q10. 好きなミュージシャンは?
玉置浩二さんです。あれだけ歌が上手だったら、楽しくてしょうがないだろうなと。
Q11. 今、一番会いたい人は?
松本潤さん。実際に目の前に現れたら何もできなくなると思うので、1m以上は離れた状態でお会いしたいです(笑)。
Q12. どんな人と一緒に仕事したい?
仕事を愛してくれる人。
Q13. 社会人になって一番心に残っている言葉は?
「人間到る処青山有り」と「置かれた場所で咲きなさい」です。
Q14. 休日の過ごし方は?
休日は声楽や茶道を習っていることが多いですね。
Q15. 日本以外で好きな国は?
台湾ですね。昨年、旅行で台湾に行ったのです。食べるものは美味しいですし、友好的な方が多くて、とてもいいところだと思いました。
Q16. 仕事で一番燃える瞬間は?
何かトラブルが発生した時でしょうか。売られた喧嘩は買いますし、絶対に負けません。
Q17. 息抜き方法は?
音楽を聴くこと。
Q18. よく使うアプリやサービスは?
パズルのようなシンプルなスマホゲームです。頭を無にしたいときに、よく使っています。
Q19. 学んでいることや学んでみたいことは?
朗読ですね。過去に勉強したことがあり、いつか本格的に挑戦してみたいなと思っています。
Q20. 最後に一言
仕事は楽しくすることが一番です。「やらされている」と感じているときは、いい仕事はできないでしょう。腑に落ちないままでいると、いい成果は出せないと思いますし、自分が「やりたい」と思える仕事を見つけて、頑張っていきましょう!

知財に関するプロモーションならお任せあれ
—【松嶋】未来への展望についてもお話いただけますか。
—【小山】子どもたちにアイデアを考えることの面白さを伝えることが、これからの私の重要な課題だと思っています。型通りに考えるのではなく、とんがったことを考えられるような、自分のやりたいことをとことん突き詰められる人を増やすお手伝いをしていきたいですね。
—【松嶋】最後に読者へのメッセージをお願いします。
—【小山】日本では、まだまだ知財の重要性が知られていません。
知財の重要性を社会に伝えるためには、企業の知財部の方も含めて、この業界で働く一人ひとりが発信し続ける必要があるでしょう。ただ、社内で発信するのには、限界もあると思います。「内部からの発信では効果が薄い」と感じていらっしゃるのであれば、私どもにご相談ください。
誤解を恐れずに言うと、変化を求めるなら外圧を利用するのも一つのやり方です。第三者的な立場である私たちが、外部の専門家をお連れして、知財に関するオーダーメイドの研修を企画・実施することもできます。そういったことも発明推進協会の役割の一つですし、“知財に関するプロモーション”にお悩みの方は、ぜひ気軽にお問い合わせいただければと思います。
【クレジット】
取材・構成/松嶋活智 撮影/原哲也 企画/大芝義信