語学力を生かし、国内だけでなく海外企業からの依頼を請け負うバイリンガル弁理士・福田秀幸
INTERVIEWEE
福田国際特許事務所 所長弁理士
福田秀幸
立教高校,立教大学法学部、MASON,PENWICK&LAWRENCE(US Law Firm)研修,Legal Programs of Harvard Law School ( Program of Instruction for Lawyers ) 修了,U.S Patent Academy審査官研修コース Phases Ⅱ~Ⅵ修了
弁理士とは:弁護士や税理士、行政書士と同じく、八士業に分類される職業の一つ。知的財産のスペシャリストとして「特許権」「実用新案権」「意匠権」「商標権」を取得したいクライアントのために、特許庁への手続きを代理することを主な仕事とする。知財の取得だけでなく、模倣品などのトラブルに関する相談も受け付けている。
特許権:程度の高い発明、技術的アイデア(例:歌唱音声の合成技術など)
実用新案権:発明ほど高度ではない小発明(例:鉛筆を握りやすい六角形にするなど)
意匠権:物や建築物、画像のデザイン(例:立体的なマスクなど)
商標権:商品またはサービスを表す文字やマークなど(例:会社のロゴなど)
池袋駅からほど近いビルに事務所を構える福田国際東京事務所。所長を務めるのは、この道のベテラン・福田秀幸氏だ。
同氏は学生時代から英語が堪能で、語学力を生かせる仕事を求めて「弁理士」という仕事に辿り着いたのだとか。弁理士になって長年、海外企業のクライアントをメインに担当してきた同氏に、弁理士になった経緯や仕事の面白さ、業界の変化、自身の強みについて、話を伺った。
海外企業からの依頼を中心に、商標や意匠の出願を手がける弁理士
—【聞き手:松嶋、以下:松嶋】はじめに自己紹介をお願いいたします。
—【話し手:福田 秀幸氏、以下:福田】福田国際東京事務所の所長弁理士を務める福田 秀幸と申します。私は商標を中心に意匠を取り扱っているほか、著作権や不正競争防止法に関連する諸問題も扱っております。国内企業が海外に出願する際のご相談の対応もしておりますが、海外企業が日本にビジネスを展開する際にご依頼いただく仕事の方が多いですね。
—【松嶋】海外企業からの依頼というと、どういった形で相談が来ることが多いのですか?
—【福田】海外企業が日本でビジネスを展開するにあたって、一般的な流れとしてはじめに商標を保護することが多いのです。出願依頼が届いたら、書類を確認しつつクライアントとやり取りして情報を引き出したり、クライアントのWebサイトの内容を吟味して取りこぼしのないように書類を作成して手続きを進めます。
商標に関してですが、商標登録出願から商標登録に至るまでのさまざまな手続き(補正案や意見書の作成、審判の請求、知的財産高等裁判所への上訴)だけでなく、ライセンスの作成・交渉、ドメイン関連や著作権の問題などへの対応を求められることも多いですね。出願依頼の前に類似している商品やサービスがないかの調査を依頼されることも珍しくありません。
海外の有名ブランド所有企業から、「日本に進出したいが、ブランド名の一部がドメインネームとして使われてしまっているため、どうにかしてほしい」といった相談をいただいたり、著作権がらみの問題を解決してほしいとのご依頼をいただいたりすることも多々あります。
—【松嶋】商標権の侵害のご相談もくることがあるのでしょうか?
—【福田】あります。商標権の侵害というと訴訟をイメージされる方もいらっしゃるのですが、実際は訴訟にまでは至らないことが多いのですよ。日本全体でみても、知財に関する訴訟はそこまで多くありません。
訴訟になると費用も時間もかかってしまいますし、国をまたいで裁判をするにはさまざまな問題が絡んできます。そうなるとクライアントにとっても負担が大きいですし、私どもにご相談いただいた場合は、できる限り話し合いで解決できるように努力しています。
—【松嶋】海外企業からの依頼だと、コミュニケーションの面で齟齬が生まれやすかったり、書類の形式が異なるなど、国内企業からの依頼とは違った苦労も多いのでは。
—【福田】コミュニケーションの部分で大きな問題に遭遇したことはないですね。書類についても理解できないようなことがあればクライアントに直接確認しますし、これまでにこれといった問題が起きたことはありません。
海外とのやり取りがある仕事を探し、辿り着いた弁理士という仕事
—【松嶋】弁理士になられたきっかけはなんだったのですか?
—【福田】語学力を生かせる仕事を探していて、たまたま行き着いたのが特許業界、特許事務所だったと言いますか。海外とのビジネスにかなり興味を抱き、特許事務所でトレーニングを積みました。助けとなりましたのは、最初に就職したのが海外のクライアントを中心としている特許事務所だったことです。
弁理士になってから、国内の特許事務所、米国の法律事務所での研修、米国特許庁の審査官の研修コースプログラムの履修、内外国の商標を中心に対応してきましたのは、私が法学部出身であるからです。
—【松嶋】先ほども「海外文化に関心があった」とお話されていましたね。海外文化に関心を持つようになったきっかけはなんだったのでしょう?
—【福田】最初のきっかけは忘れてしまいましたが、きっと海外にいろいろと興味があったのだと思います。あと「人」にとても興味があるんです。人と話すということは、いろんな考えに触れることだともいえます。
文化の違う人と話していると勉強になることが多く、いろいろと考えさせられることもありますし、何よりも面白いですね。いろんな国の人と話せるようになりたいと思い、大学では英会話クラブに所属して、会話力を伸ばしました。英語だけでなくロシア語やドイツ語もかなり勉強しましたね。ただ、ロシア語とドイツ語は、ビジネスではほとんど使用することがありませんでした。残念です。
—【松嶋】知的好奇心が旺盛だったのですね。根っから弁理士向けのタイプだったのだろうなと思いました。弁理士として働き始めてみて、いかがでしたか?
—【福田】楽しかったです。ただ、先ほどもお話しした通り、海外企業のクライアントが多い特許事務所だったため、書類を作成するのは大変でした。文章を読む分には問題がなかったのですが、きちんとした文章を書く作業にはトレーニングが必要でした。勉強のしがいはかなりあったように思います。
—【松嶋】最近は各業界でDXが進んでいますが、弁理士業界でも手続きが簡素化されるなどの変化が進んでいるのですね。そのほかに、何か変わったことはありましたか?
—【福田】弁理士になってかなりの年月が経ちますが、その間にいろいろなドラスチックなビジネス上の変化はたくさんありました。特に、リーマン・ショック(2008年に発生した世界的な金融・経済危機)の影響は大きかったですね。それまでは対応しきれないほど膨大な数のビジネスの依頼がありましたが、リーマン・ショック後は一時的ではありますが依頼数がかなり減りました。
ビジネス上の依頼フローも変わりましたね。以前は私どもの方から特許庁に申請する形での依頼が中心だったのですが、現在はマドプロ出願(複数の国で商標登録をすることができる国際登録制度)で日本特許庁から拒絶された場合に対応してほしいという依頼へとシフトしてまいりました。
—【松嶋】リーマン・ショックは、商標の領域にも影響を及ぼしていたんですね。
—【福田】リーマン・ショックの影響は非常に大きかったですね。そもそもバブル崩壊後から日本の経済成長は停滞していますし、以前と比べて日本市場の魅力も下がっているように思います。日本の経済力の衰退や人口減少に伴う市場の魅力度の低下に伴い、海外からのビジネスの依頼数も減ってきているように思いますね。
知財の登録に向けた仕事だけでなく、ライセンスや著作権侵害などの問題にも幅広く対応
—【松嶋】弁理士の仕事をする上で、一番面白いと感じるのはどういった部分なのでしょうか?
—【福田】案件ごとに異なる問題を解く面白さや、いかにクライアントの利益を最大限に保護できるかといったところですかね。特許庁への手続き行為は同じであっても、その内容はそれぞれ全く異なりますから。解決するべき問題も案件によって異なりますので、案件ごとに問題集の設問を解いているような感覚ですかね。
—【松嶋】福田さんは商標を中心に対応されているというお話でしたが、クライアントの業種は固定されているのですか?
—【福田】特に偏りはありません。電子機器メーカーや食品メーカー、銀行、エアラインなど、さまざまなクライアントの商標に係る依頼を請け負ってきました。基本的に、特許と実用新案以外は対応できるようにしています。特許と実用新案については技術的なバックボーンがないと、取り扱うのが非常に難しい領域でもありますから。
—【松嶋】クライアントの業種を問わず、商標と意匠の出願は対応されていると。
—【福田】ええ。あとは、不正競争防止法や著作権法、商品化権などの問題や、ライセンスに関する相談も請け負っています。特に、ライセンスについては国際私法やその他の法律が密接に関わってきますので、やりがいが非常にあります。
—【松嶋】ライセンスについても、福田さんの強みの一つなのですね。
—【福田】そうですね。商標や意匠というコア領域だけではなく、そこに付随するさまざまな問題に対応できるように、コンサルタント業としても積極的に取り組んできました。
また「強み」という観点でいうと、キャリアの長さも大きなポイントだと思います。弁理士の仕事は、知財の多岐にわたる案件を扱いますが、特許や商標・意匠の特許庁へ提出する書類の作成に際しては、いかにして、特許や登録に持っていけるのかどうかを判断するのも重要な仕事の一つです。このような判断力を身につけるには、10~20年はかかるのではないかと思います。
—【松嶋】出願する前に、ある程度の勝負はついているというか。
—【福田】そうですね。商標の場合でいうと、間口は広いのですが奥行きが深いため、どのような問題が隠されているのかを見極めて出願するかどうか判断するのは非常に難しいところもあります。そういった部分の調査や判断というのは、弁理士として腕の見せ所でもあるといえますね。とはいえ、将来的にはその辺の判断はAIがかなりしてくれるようになると考えています。
KEYPERSONの素顔に迫る20問
Q1. 好きな漫画は?
漫画よりも本が好きなので、特にはありません。
Q2. 人情派? 理論派?
半々でしょうか。仕事をする上で、どちらも大切だと思います。
Q3. パン派ですか? ライス派ですか?
選ぶのが難しいですが、朝はパンを食べることが多いです。
Q4. 都会と田舎のどちらが好きですか?
どちらも魅力があると思いますが、食や文化なども含めていろいろなものが揃っている都会が好きです。
Q5. 保守的? 革新的?
何とも言えません。必要であれば新しいものもどんどん取り入れるようにしています。
Q6. 好きなミュージシャンは?
音楽はあまり聴きませんが、小椋佳は大好きです。
Q7. これまでに仕事でやらかした一番の失敗は何ですか?
Q8. 犬派? 猫派?
猫派です。もともと飼っていたので。
Q9. 現実派? 夢見がち?
Q10. 今、一番会いたい人は?
若いときに少し縁があったものの、現在では全くつながりのなくなった人に会いたいですね。
Q11. 仕事道具でこだわっているのは?
シャープペンシルです。原稿を書く際にはスピードが要求されますので、引っ掛かることなくサラサラと書けるものを使うようにしています。
Q12. どんな人と一緒に仕事したいですか?
真面目な方です。仕事に対して前向き、かつ真摯に取り組んでくださる方が理想です。
Q13. 社会人になって一番心に残っている言葉は?
何でしょう…。すぐには思い浮かびません。強いて言うなら「遊び心」かな。
Q14. 休日の過ごし方は?
家事をしたり、体調管理のためにウォーキングしたりすることが多いです。
Q15. 好きな国はどこですか?
日本ですね。あらゆる国に行きましたが、日本が最高だと思います。
Q16. 仕事の中で一番燃える瞬間は?
全てに対応できるのか少し不安になるほど仕事が溜まっている時。
Q17. 息抜き方法は?
政治や食文化、旅行など、さまざまなジャンルの本を購入すること。書店に行くこと自体が趣味になっているのかもしれません。
Q18. 好きなサービスやアプリは?
特にありません。
Q19. 学んでみたいことは?
生成AIなどの新しい領域ですね。遅れることのないよう、学び続けたいです。
Q20. 最後に一言
グローバルに事業を展開されていて、知財、特に商標に関する事業展開を考えられている方は、ぜひご相談ください。
クライアントをサポートするべく、誇りを持って弁理士の仕事を続ける
—【松嶋】お話を聞いていて、弁理士の仕事は奥が深いのだなと改めて思いました。
—【福田】深いです。単なる手続きの仕事と思われましたら大きな誤解です。メインの仕事である特許や商標登録に至るまでの過程でさまざまな知識・判断が求められます。弁理士の仕事はそこに価値があると思いますし、常に新しいものをクリエイトしていかなくてはいけません。変化し続ける社会の価値観に合わせられるよう、最新の情報をキャッチアップし続ける必要もあります。クリエイティブな一面がある一方で、クライアントの経営判断を支える重要な役割も担っているのが、弁理士という仕事だと思います。
—【松嶋】弁理士の知名度がもっと向上していけば、より良い社会に近づきそうですね。最後にメッセージをお願いできますか。
—【福田】知財立国を推進していくには、弁理士の存在は欠かせません。より豊かな社会の実現に向けて、大いに弁理士を活用していただきたいと思います。
また弁理士は、不正競争や著作権、ドメインネーム、模倣品の税関での差し止めなど、幅広い問題に対応しています。ビジネスを進めていく上で、何か問題がありましたら、ぜひ弁理士にご相談ください。
【クレジット】
取材・構成/松嶋活智 撮影/原哲也 企画/大芝義信