「法律って面白い」。ちょっとした興味から知財の世界に飛び込み、活躍し続ける弁理士・小牧佳緒里

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INTERVIEWEE

弁理士法人白坂 弁理士

小牧佳緒里

2012年4月~2016年 高岡IP特許事務所
2015年 弁理士試験合格
2016年~ 特許業務法人 白坂
2019年~ 特許業務法人 白坂 代表弁理士

弁理士とは:弁護士や税理士、行政書士と同じく、八士業に分類される職業の一つ。知的財産(知財)のスペシャリストとして「特許権」「実用新案権」「意匠権」「商標権」を取得したいクライアントのために、特許庁への手続きを代理で行うことを主な仕事とする。知財の取得だけでなく、模倣品などのトラブルに関する相談も受け付けている。

特許権:程度の高い発明、技術的アイデア(例:歌唱音声の合成技術など)
実用新案権:発明ほど高度ではない小発明(例:鉛筆を握りやすい六角形にするなど)
意匠権:物や建築物、画像のデザイン(例:立体的なマスクなど)
商標権:商品またはサービスを表す文字やマークなど(例:会社のロゴなど)

現役の弁理士として活躍しつつ、ラジオ番組『テックニキ白坂一のイノベーションの種はココにある!(中央FMラジオ)』への出演だけでなく、テレビや新聞などの各メディアでも精力的に活動している白坂一氏。

同氏が立ち上げた弁理士法人白坂にて、代表弁理士を務めているのが小牧佳緒里氏だ。小牧氏は、異業種から転職する人が多い弁理士業界において、特許事務所に新卒入所して弁理士になった珍しい経歴の持ち主でもある。

なぜ弁理士の道を志すようになったのか?過去から現在の仕事について、話を伺った。

商標や特許を中心に、幅広くカバーする弁理士として活躍

—【聞き手:松嶋、以下:松嶋】自己紹介をお願いします。

—【話し手:小牧 佳緒里氏、以下:小牧】税理士法人白坂の代表弁理士をしている小牧佳緒里と申します。事務所としては商標や特許のご依頼が多く、私個人としては意匠や特許翻訳にも対応しています。

—【松嶋】幅広く担当されているのですね。

—【小牧】そうですね。中でも多いのは商標の出願や中間処理(出願してから登録されるまでの手続きなどの総称)です。商標や中間処理の対応をする場合は、クライアントと密にコミュニケーションをとりながら進めていく必要があり、そこにやりがいを感じています。

—【松嶋】ちなみに、特許の場合は専門分野を決めていらっしゃる方も多いと思います。小牧さんは何か専門とされている分野はあるのですか?

—【小牧】基本的には全てのジャンルに対応していますが、事務所としてソフトウェア領域に特化しているため、IT関連のクライアントが多い傾向にはあります。

—【松嶋】もともとIT領域を専門とされていたのですか?

—【小牧】いいえ。大学は生活科学部でしたし、どちらかと言えば医療機器や体内動態といった領域の方が専門に近いです。

ただ、ソフトウェアはその技術で何を実現したいのか、ということが明確ですし、弁理士にとっては対応しやすいものでもあるんですよ。化学や科学などの領域だと、専門家でないと難しいと思います。

—【松嶋】なるほど。ソフトウェアは明確な目的があって開発されているものですし、研究のなかで発見した技術と比べると、そもそものアプローチが違いますものね。

—【小牧】あとはソフトウェアなどの成長している分野の特徴として、一つひとつの差分が明確というのも関係しています。

反対に、すでに発展している分野は研究され尽くしている領域でもあるため「とても先進的な技術」もしくは「微々たるアップデート」で特許を取得するという、どちらかのパターンが多いんです。

そうなると、その分野の専門家でなければ、対応するのが難しくなってしまいます。特に「微々たるアップデート」の場合、それが特許にとって有用なのかどうかを判断するのは、知識があっても簡単ではないと思います。

—【松嶋】技術ごとの違いが明確だと、特許も取得しやすいと。

—【小牧】そうですね。ソフトウェアの場合は目的が明確ですし、ビジネスモデル特許に近いイメージです。

2年で弁理士試験合格!入所のきっかけは「法律の面白さ」

—【松嶋】弁理士になる前は、どんなことをされていたのですか。

—【小牧】新卒で特許事務所に入所して、弁理士になるまでは特許技術者(※1)をしていました。

—【松嶋】弁理士は別の仕事から転職されることが多いイメージです。新卒からこの業界を選ばれたというのは、とても珍しいケースなのではないですか?

—【小牧】そうですね。企業に入社してから知財部があることを知って弁理士に転職、という方の方が多いかもしれません。弁理士試験を受けたときも、私より10~15歳ほど上の方が多かったと記憶しています。

—【松嶋】小牧さんは大学生の時から弁理士を目指されていたのですか?

—【小牧】それが実は、もともとは公務員を目指していたんです。公務員試験の勉強をしていたら、途中で法律の話が出てきて、そこで「法律って面白いな」と思うようになりました。就活が始まったときに法律事務所や特許事務所に応募して、最初に受かった特許事務所に入所して、現在に至ります。

—【松嶋】公務員を目指されていた理由が気になります。

—【小牧】公務員は決まったことをきっちりこなす仕事という印象があり、自分の性格に合っているだろうと思っていたんです。あとは安定している職業だというのも大きかったですね。ただ途中で法律の面白さに気がついてしまって、本来目指していたルートから少しずつ逸れていきました。

—【松嶋】弁理士事務所に入所できたとき、最初はどう思われましたか。

—【小牧】「とても自分に向いている場所だ!」と思いました。一生この仕事で生きていこうと。当時は「自分に接客はできない」と考えていたので、1人で黙々と作業ができる仕事は天職だと思ったんです。

そのなかで特許技術者として仕事を続けていたら、ある時から周囲から「弁理士の資格を取ってみたら?」と言われるようになって、試験を受けることにして。弁理士の先生にいろいろご指導いただいたおかげで、2年ほどで合格することができました。

—【松嶋】弁理士は合格率10%未満の難関の国家資格ですよね。それに2回目で合格するとはすごいですね!

—【小牧】コツがあると言いますか、合格の鍵は「条文をどれだけ読み込むか」という点にあると思うんです。私は新卒で入所した事務所の先生に「まず条文を読みなさい」と口酸っぱく言われていたのが幸運だったのだと思います。

—【松嶋】なるほど。それで晴れて弁理士となって、現在の事務所に入所されたのはいつ頃ですか?

—【小牧】2015年に弁理士試験に合格して、2016年に弁理士法人白坂に入所しました。弁理士法人白坂では、入所してすぐのタイミングで某自動車メーカーの子会社の知財部に出向することになり、1年ほど愛知県の豊田市に住んでいました。2017年に東京に戻ってきて、そこからはずっと東京にいます。

—【松嶋】入所してすぐの出向だったのですね。

—【小牧】私が入所したタイミングで、内外(※2)を担当する弁理士を探しているとご相談が来たらしく、前の事務所で外内(※3)を担当していた私に白羽の矢が立ったそうです。

内外と外内ではいろいろと異なることが多く、大変なこともありましたが、とても勉強になりましたし、良い経験をさせていただいたなと思っています。

※1……出願書類の作成を行うなど、弁理士の業務をサポートする職業

※2……日本のクライアントが海外に出願する案件

※3……海外のクライアントが日本に出願する国内案件

環境が180度変わったことで、人生もアップデート!

—【松嶋】弁理士法人白坂に入所してから、弁理士としての変化はありましたか?

—【小牧】働き方が変わりました。一般的な弁理士事務所はクライアントとのやり取りが少なく、黙々と作業をすることが多いと思います。

しかし、弁理士法人白坂ではクライアントと密にコミュニケーションを取るようにしていますし、面談の数も多いです。2023年からはWeb上で申し込みできるAI商標出願サービスも始めていて、1日に2~3件の面談が入ることもあります。

—【松嶋】環境が180度変わったんですね。

—【小牧】黙々と作業ができるから弁理士になったはずなのに、気がついたらガラッと変わっていました(笑)。

そもそも、創業者である白坂さんはとてもパワフルな人で、相談が来る前に自分からクライアントのもとに足を運んでヒアリングされているんですよ。定例会なども行っていますし、弁理士法人白坂は企業の知財部のような働き方に近いと言えるのかもしれません。

—【松嶋】相談が来るのを待つのではなく、自分から取りに行くスタイルを取られていると。

—【小牧】はい。通常はクライアントからご相談がきてから案件が進むことが多いと思うのですが、定例会をすることによって、知財を活用した事業戦略が立てやすくなるというメリットがあります。また、知財の出願は提出時期も非常に重要ですし、事前にヒアリングしておくことで「ご相談いただいたときには既に手遅れだった」といった事態を避けることもできます。

今の働き方になって、難易度が高いと感じることもあるのですが、やりがいを感じられます。弁理士法人白坂に入所して、人生をアップデートさせられたと言いますか、人間として生まれ変わった感覚ですね(笑)。

—【松嶋】お話をお伺いしていて、充実されているのだろうなと思いました。

—【小牧】そうですね。白坂さんが先陣を切ってクライアントのニーズを叶えていっているなかで、どこまで追いつけるのか、日々が自分との戦いです。

KEYPERSONの素顔に迫る20問

Q1. 出身地は?

富山です。

Q2. 趣味は?

最近はゲームにハマっています。あとは小説を読むのも好きで、なろう小説もよく読みます。

Q3. 特技は?

なんでしょう……。強いて言うなら、寝たら忘れられます。

Q4. カラオケの十八番は?

子どもが産まれてからはカラオケに全く行っていないので、特にはありません。

Q5. よく見るYouTubeは?

カジサックのYouTubeをよく見ています。

Q6. 座右の銘は?

「初志貫徹」ですね。

Q7. 幸せを感じるときは?

子どもたちと遊んでいるときとか、たくさん寝たときですね。

Q8. 今の仕事以外を選ぶとしたら?

専業主婦として家事を極めてみたいです。

Q9. 好きな漫画は?

好きな漫画はたくさんあって、ずっと好きなのは『名探偵コナン』です。『ハイキュー!!』も好きでした。

Q10. 好きなミュージシャンは?

ハロプロはよく聴いてます。あとはYOASOBIやTWICEも聴きますね。

Q11. 今、一番会いたい人は?

鈴木愛理さんです。プロ意識が高く、ずっと努力し続けている人なので、とても尊敬しています。

Q12. どんな人と一緒に仕事したいですか?

あまり人の好き嫌いはない方なので、特に思い浮かばないのですが、強いて言うなら個人攻撃をしてこない人ですね。

Q13. 社会人になって一番心に残っている言葉は?

子どもを産んでから記憶が曖昧で、正確な言葉ではないのですが「苦労するのではなく、やりたいことをやったら、その先に成果がある」というフレーズは心に残っています。

Q14. 休日の過ごし方は?

休日は何もせずにダラダラするようにしています。

Q15. 日本以外で好きな国はどこですか?

どうでしょう?……特には思い浮かびません。

Q16. 仕事の中で一番燃える瞬間は?

壁は高いけれど頑張れば乗り越えられるような、“もう一踏ん張りな仕事”を任されたとき。「やるっきゃない」って思うと、頑張れます(笑)。

Q17. 息抜き方法は?

休日の過ごし方と同じになってしまうのですが、家でダラダラすることです。バタバタしている日が続いたときの週末は、あえて予定を入れずに「何もしない」と決めてのんびり過ごすようにしています。

Q18. 普段よく使うアプリやサービスは?

よく使うのは、YouTubeとUberEatsとAmazonです。コープ(生協)もよく利用しています。

Q19. 学んでいることや学んでみたいことは?

知財以外の領域の知識をアップデートしていきたいです。白坂さんは本当に博識なので、少しでも近づけるようになりたいです。

Q20. 最後に一言

知財に関することは、ぜひお気軽にご相談ください!

日本を元気にするためにも、知財業界を盛り上げていく

—【松嶋】今後の目標をお話いただけますか。

—【小牧】短期的かつ個人的なことで言うと、仕事のパフォーマンスを上げることが目標です。子どもが2人いて、子育てと仕事をどうやって両立するか悩んでいて……。業務効率をいかに向上していくかが課題だと考えています。

長期的な目線で言うと、事務所だけでなく知財業界にとっても+αになるようなものを生み出していきたいです。

—【松嶋】具体的なアイデアはあるのですか?

—【小牧】今のところ、具体案は出ていません(笑)。

でも、私は知財業界が好きですし、もっとこの業界が発展していってほしいと心から願っています。それに、権利を取得して適切に活用すれば、ビジネスを大きく発展させることもできるはず。日本全体が不景気で国全体が少し落ち込んでいるなかで、知財を起点に何かできないか、アイデアを模索中です。

—【松嶋】知財業界を盛り上げるために、課題となっているのはなんだと思いますか?

—【小牧】知財の重要性が知られていない、という点は大きな課題なのではないでしょうか。

通常だと、ビジネスがある程度大きくなってから特許事務所にご相談いただくことが多いのですが、それだと手遅れなこともあって。例えば、Webサイトを運用していて、人気が出てきたころにサイト名を商標で出願しようと思ったら、すでに別の会社が登録していたなんてことは珍しくありません。

そのようなトラブルを防ぐため、また日本全体を元気にしていくためにも、知財の重要性を少しずつ広めていきたいですね。

—【松嶋】企業がマーケティングに投資することが一般的になっているように、知財の活用がもっと浸透していくといいですね。

—【小牧】本当にそう思います。「知財=大企業が取得する権利」というイメージが強いのかもしれないのですが、個人名義で出願されている方もいらっしゃいます。

そんなにハードルが高いものではありませんし、気軽にご相談いただけるとうれしく思います。


【クレジット】
取材・構成/松嶋活智 撮影/原哲也 企画/大芝義信