弁理士兼IT企業のCEO!知財を軸に日本の経済活性化を促す革命家・白坂一の挑戦はつづく

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INTERVIEWEE

株式会社AI Samurai 創業者兼代表取締役
弁理士法人白坂 創業者

白坂一

博士(知識科学)、弁理士、北陸先端科学技術大学院大学客員教授、国家試験知的財産管理技能検定委員、弁理士法人白坂 創業者、経済産業省Healthcare Innovation Hubアドバイザー防衛大学校 理工学部 卒業。機械学習による画像処理の研究で横浜国立大学院 環境情報学府 博士前期課程修了。AIと人間の進歩性に関する協働に関する研究で、北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 博士後期課程修了。2015年に株式会社AI Samurai(旧ゴールドアイピー)を創業。

弁理士事務所の創業者であり、AIソリューションを提供するIT企業のCEOとしても活躍している白坂一氏。もともとは自衛官を志して防衛大学校に通っていたが、勉強をするうちに「日本の防衛力を高めるためには経済力も必要だ」と思うようになり、弁理士の道を志すようになったのだとか。

さまざまな職業があるなかで、なぜ弁理士を選んだのか?弁理士事務所を立ち上げたあと、IT起業を立ち上げた理由は何だったのか?同氏の半生を振り返るとともに、今後の展望についても伺った。

知識と経験を生かし、多方面から日本の知財活用を促進

—【聞き手:松嶋、以下:松嶋】自己紹介をお願いします。

—【話し手:白坂 一氏、以下:白坂】弁理士法人白坂の創業者であり、大阪大学と北陸先端科学技術大学院大学による発明創出AI®企業である株式会社AI SamuraiのCEOをしている白坂一と申します。

—【松嶋】弁理士法人白坂ではどのようなことをされているのですか?

—【白坂】弁理士法人白坂では、クライアントの要望や経営状況、事業ドメインに合わせて、知財戦略に関するアドバイスや出願対応などをしています。弁理士が10名ほど所属しており、規模としては中堅事務所だと言えると思います。

あとは、私自身がIT会社を起業・経営しているというのも、大きな差別化ポイントだと考えていて。資金調達の経験があるため、ベンチャー企業のアピール方法に加えて、IPOやM&AなどEXITするときの知財の活用法などに関しても、的確にアドバイスできると自負しております。

—【松嶋】自身がIT起業家であるからこそ、経験に則したアドバイスができるのですね。白坂さんは以前から起業やEXITなどに関心をお持ちだったのですか?

—【白坂】AI Samuraiを立ち上げる前に、M&Aの紹介会社や証券会社から依頼を受けて、M&Aの支援業務をサポートしていたことがあるんです。上場を目指すベンチャー企業や上場企業の裁判の対応なども含めて、特許の権利行使や知財の活用に関する案件を多く担当させていただいたことで、EXITや知財活用に関する知識が身につきました。

—【松嶋】なるほど。AI Samuraiについてもお伺いさせてください。こちらではどのような事業を展開されているのですか?

—【白坂】生成AIを活用した特許申請支援ツール「AI Samurai ONE / ZERO」を提供しています。将来的には「AI Samurai ONE / ZERO」を通して、特許出願件数を増やしていくことに貢献したいと考えています。

というのも、日本の場合は特許出願の80%が大企業のものであり、中小企業やスタートアップの出願件数は少ないのです。海外と比べて、知財活用が活発でないのも課題だと感じています。特許を出願しやすい環境を整えることで、出願件数を増やし、そういった課題の解決につなげていくことを目指しています。

—【松嶋】確かに、海外の方が知財活用が活発なイメージがありますね。

—【白坂】国によって制度は異なるのですが、例えばアメリカでは、知財に関する訴訟の数がとても多いのですよ。日本の場合、大手企業で訴訟するケースは非常に少ないでしょう。そのほか、韓国では若手の弁理士が独立しやすい環境を作るため、国を挙げてサポートする動きもあります。それらを鑑みると、弁理士が活躍できる素地を作らなければ、日本の弁理士業界は苦しくなっていく一方だと思います。

—【松嶋】弁理士の活躍の場を増やすためにも、特許出願件数を増やすことはとても重要なポイントなのですね。

—【白坂】ええ。昔は約50万件の特許出願があった時期もあるのですが、10年、20年単位でみると減少傾向です。2023年は前年と比べて3.6%増加の約30万件だったのですが、少ない件数であることに変わりはない。将来的には、これを150万~200万件ぐらいに増やしたいですね。

「日本を守る」その思いを胸に、弁理士の道を進む

—【松嶋】過去のお話もお伺いさせてください。大学では何を学ばれていたのですか?

—【白坂】防衛大学校の通信工学科で、通信に関する勉強をしていました。卒業後は横浜国立大学院に進み、情報メディア環境学にて画像処理の研究をしていました。

—【松嶋】防衛大出身なのですね!

—【白坂】ええ。私は子どもの頃に阪神・淡路大震災を経験していて、その時に自衛隊の皆さんの活躍している姿がとても印象に残っていたのです。あとは父が事業に失敗して金銭的に苦労していた時期があったこともあり、入学金と授業料が無料の防衛大を選びました。

—【松嶋】なるほど。防衛大を卒業されたあとは、なぜ自衛隊ではなく大学院に進まれたのですか?

—【白坂】自衛隊に入隊するつもりだったのですが、勉強を続けるなかで、日本を守るのであれば別の道があるのではないか?と思うようになって。国の防衛力を高めるためには経済的な力が必要ですし、それならば国内の経済を盛り上げる仕事に就いた方が良いかもしれないと思ったのです。そんな時に防衛大出身で弁理士をされている方に出会い、いろいろと考えた末に、弁理士の道に進むことを決意しました。

—【松嶋】弁理士の道に進むと決めるまでに、大きな葛藤があったのでは?

—【白坂】そうですね。ただ弁理士について調べていくうちに、防衛大で学んだ軍事戦略が、知財戦略に活かせるのではないかと思いました。

というのも、知財は独占権であり排他権であると言われています。それを聞いたときに、前者は独占性を保つことで事業を保護する盾、後者は差し止めや損害賠償などを通して第三者を攻撃する矛だと思ったのですよ。その盾と矛は、日本を守るための経済的な軍事力になるだろうと。

それで、弁理士になるなら技術も理解しなければいけないだろうと思い、ソフトウェアの勉強をするために大学院に進んだというわけです。

—【松嶋】弁理士になることを決意の上で、大学院に進まれたのですね。そのあとは何をされていたのですか?

—【白坂】そのあとは、富士フイルム株式会社の知的財産本部で8年勤めていました。そのうち2年間は特許事務所に駐在して、明細書や中間処理対応に専念していました。富士フイルムに戻って数年後の2011年に、現在の弁理士法人白坂の前身となる白坂国際特許事務所を立ち上げて独立、という流れです。

—【松嶋】独立のきっかけはなんだったのですか?

—【白坂】富士フイルムはとてもいい会社でしたし、サラリーマン生活は楽しかったのですが、2011年に発生した東日本大震災を機に「日本全体の知的財産を盛り上げたい!」と思うようになったからです。

スタートアップを伸ばさなければ日本経済は悪くなる一方だと思い、スタートアップ向けの弁理士事務所を立ち上げました。

—【松嶋】2011年当時にスタートアップを重視されている方は少なかったのではないですか?

—【白坂】そうですね。ただ私は、スタートアップを増やして日本中で新しい発明をどんどん生み出していくべきだと思っていました。また当時から日本企業によるコストダウンを目的とした特許出願が減少していたため、国内経済をもっと盛り上げなくてはいけない、という危機感もありましたね。

AIの可能性に着目し、起業に挑戦

—【松嶋】2011年に弁理士として独立されたあと、2015年に起業されていますね。後者を立ち上げた理由が気になります。

—【白坂】AIに関心があったからです。実は、2012年からの数年間、弁理士として活動しつつ、上場しているリーガルテックの子会社の社長をしていたことがありました。その会社がNASDAQ市場に上場するかしないかという時期に、アメリカではAIに注目が集まっていることを知り、私も興味を持つようになったんです。ただ、その時点で起業するとは考えていませんでした。

上場をきっかけに私は子会社の社長を退任し、個人的には弁理士の仕事に集中しようかなと思っていたのですが、ある銀行の方から出資のお話をいただいて。どうするか悩んだ末に、起業することにしたのです。

—【松嶋】出資の提案が先にあって、そこから起業を決意されたと。とはいえ、すでに弁理士としての実績があった状態で、別領域での起業を決意するのは並大抵のことではないように思います。

—【白坂】どうでしょうね。もともと弁理士の業務だけでは、日本経済を盛り上げるのに限界があると感じ始めていて。また弁理士として仕事をする上で、経営者の方の気持ちを正確に理解できていないのではないか?と心配な気持ちもありました。

例えば、審査請求には十数万かかるのですが、それを請求するのと自分のお金で支払うのとでは、全く異なりますよね。本当に価値のあるものを提供する、経営者の気持ちに寄り添うためには、自分でも資金繰りや開発に挑戦した方が良いのではないか、と思ったのです。

日本は他国に比べて産学連携が弱いというのも気になっていたため、大阪大学と北陸先端科学技術大学院大学による発明創出AI®企業として、AI Samuraiの前身となる会社を立ち上げました。

—【松嶋】なるほど。立ち上げ当初から今と同じ事業をされていたのですか?

—【白坂】いいえ。一度ピボットしています。最初は、外国出願の依頼を簡素化するポータルサイトを開発しようと考えていました。チャットを使って海外の弁理士事務所と依頼者を繋げるようなサービスを想定していたのですが、あまり上手くいかなくて。今はチャットツールがたくさん出ていますが、当時は海外の弁理士事務所がチャットに慣れておらず、オペレーションがうまく構築できなかったのです。

そこで、起業から3年ほど経った2018年にピボットして、以前から関心のあったAIを活用することにしました。

—【松嶋】2018年というと、AIに対する社会の関心がそこまで高くない時期ですよね。

—【白坂】そうですね。翻訳ツールはまだ使えるものがあるかな、というレベルでした。

社会的にはそんな感じだったのですが、個人的に投資をしていた会社にAIの開発者がいたため、そこを買収してAI Samuraiが誕生しました。

—【松嶋】先見の明をお持ちと言いますか。AIについては、ここ1~2年で一気に風向きが変わりましたよね。

—【白坂】そうですね。私たちが開発しているサービスについても、以前は特許を習得できる可能性をランク判定するシステムだったのですが、最近は生成AIを取り入れて書類作成ができる機能を追加しました。

—【松嶋】そのほか「AI Samurai ONE / ZERO」では何ができるのですか?

—【白坂】特許の調査にかかるコストを最大40%削減できます。というのも、国内に限った調査であれば別ですが、海外の特許についても調べるとなると、どうしても一定の時間をいただく形になってしまうんです。しかし「AI Samurai ONE / ZERO」であれば、3~4分で調査できます。似ている特許がないかどうかAIで評価するとともに、審査のシュミレーションも可能です。また先ほどもお話ししたように、生成AIを活用して特許文書を作成することもできます。

実際に特許を出願するとなった際は、弁理士法人白坂の方でしっかり対応しますし、安心してご相談いただければと思います。

—【松嶋】AI Samuraiではソリューションを活用して特許を出願するかどうかの判断を支援し、弁理士法人白坂では実際の手続き対応をしてくださると。特許に関することを一気通貫でサポートしていただけるというのは、クライアントも安心ですよね。

—【白坂】ありがとうございます。「AI Samurai ONE / ZERO」で作成した書類を通して新たな発見も得られると思いますし、壁打ちのような感覚で使っていただけると嬉しいですね。例えば、1枚目の草案を「AI Samurai ONE / ZERO」で作成して、そのあと弁理士に追記いただく、追記いただいた書類にAIがさらに追記する、なんて使い方も可能です。1件の書類から10~30件ほど発明のバリエーションを出すこともできますし、AIを活用すればコストも抑えられます。

一つ言っておきたいのが、これは弁理士の仕事を奪うものではありません。特許出願件数が増えることで日本の知的財産活用を活発化させ、弁理士の仕事を増やすことにもつなげていきたいと考えています。

KEYPERSONの素顔に迫る20問

Q1. 出身地は?

青森生まれ、大阪育ちです。

Q2. 趣味は?

ゴルフ、釣り、ゲーム。あと格闘技を見るのも好きです。

Q3. 特技は?

せっかちというわけではありませんが、意思決定や行動は早い方です。

Q4. カラオケの十八番は?

その時々で流行っている曲を歌うことが多いですね。最近は優里の「レオ」をよく歌います。

Q5. よく見るYouTubeは?

旅関係のものが好きで、Bappa Shotaとしげ旅の動画を観ることが多いです。あとはIPOやM&Aなど EXITに関する動画も1日10分ほど観ていますね。本と動画の両方で勉強していると、いろんな意味で差分が見えて面白いですよ。

Q6. 座右の銘は?

悲観的に準備をし、楽観的に対処せよ。

Q7. 幸せを感じる瞬間は?

犬とじゃれ合っているとき。

Q8. 今の仕事以外を選ぶとしたら?

なんでしょうね。やりたいことは既にやっているし……。強いて言うなら弁護士とか面白そうですよね。

Q9. 好きな漫画は?

「ONE PIECE」。あとは「ドラゴンボール」とかも好きです。

Q10. 好きなミュージシャンは?

難しいですね。最近は以前よりも好きだと思うものが少なくて、韓国アイドルの歌をよく聞くようになったくらいですね。積極的に聞くというよりは、流れていれば聞く、といった感覚です。

Q11. 今、一番会いたい人は?

小さかった頃の息子と娘に会いたいです。今はそれぞれ大きくなっているので、今の記憶を持ったまま小さかった頃の子どもたちに会ってみたいですね。

Q12. どんな人と一緒に仕事したい?

明るい人がいいですね。

Q13. 社会人になって一番心に残っている言葉は?

言葉というよりは、誰かに怒られたときのことはよく覚えていますね。民間企業の社員だったとき、自分で起業したとき、それぞれの時代を思い返すと、立場や環境が変わると怒られ方が変わっていたなと。嫌な思い出というわけではなく、振り返ってみると勉強になるなと思います。

Q14. 休日の過ごし方は?

基本的にゴルフ、釣り、ボクシングジム、そのうちのどれかをして、あと1日は家族と過ごすことが多いです。

Q15. 日本以外で好きな国は?

最近だとフランスですね。フランスの人と仕事する機会が多くて、話を聞いていると面白い国だなと思います。

Q16. 仕事で一番燃える瞬間は?

生成AIや最新のテクノロジーを活用できて、お客様に喜んでもらえるようなアイデアを思いついたとき。

Q17. 息抜き方法は?

釣り、ゴルフ、ボクシングジムのどれかに行くこと。

Q18. よく使うアプリやサービスは?

ChatGPTをよく利用しています。あとは意識的にゲームをするようにしています。最新のゲームにはさまざまなテクノロジーが詰まっていますからね。それに、ゲームは日本の得意分野です。技術を学ぶという意味で、弁理士の仕事に生かせる部分も多いため、積極的にゲームをするようにしています。昔より操作が複雑になってきているので、よく息子に教えてもらっています。

Q19. 学んでいることや学んでみたいことは?

いま興味を持っているのは、食分野ですね。料理の見せ方やGoogleなどの評価の仕組みを研究したくて、実は小田原で「縁慈」という創作和食レストランの経営にも挑戦しています。

Q20. 最後に一言

知的財産はとても面白い領域です。発明者だけでなく、弁理士を目指す人がもっと増えていくと嬉しいですし、そのために今後も活動し続けたいと思っています!

「教育」をテーマに掲げつつ、新たな挑戦をつづける

—【松嶋】弁理士とIT企業のCEOと、全く異なる二つのジャンルで活動し続けるのは、なかなかハードではないですか?

—【白坂】どうでしょう。私個人としては、違うことを同時にすることで、いいバランスを保てていると感じます。どちらかだけだと、マンネリ化してしまう可能性もあるのかなと。あと最近は大学で講義をすることもあり、学生と話すことでいい刺激をいただいています。

—【松嶋】講義もされているのですね。

—【白坂】ええ。2023年に北陸先端科学技術大学院大学で博士課程を取得していて、そのご縁で講義をさせていただくことになったんです。

—【松嶋】つい最近のことなのですね!ずっと何かにチャレンジし続けられるというのは、本当にすごいですね。

—【白坂】安定した場所にいると、成長を感じられなくなってしまいますから。さまざまな場所で活動していると、大変なこともありますが、気分転換になりますよ。それぞれの活動を通して、学ぶことも多いですしね。

—【松嶋】白坂さんの今後の挑戦が気になります。

—【白坂】弁理士法人白坂では、教育に力を入れていこうと考えています。最近、事務所に弁理士を目指したいという方が4名入所したこともあり、週3ほどのペースで勉強会をしているんです。それに注力していきたいですね。

AI Samuraiでは、ご縁があれば海外にも進出していきたいなと思っています。現状では自分たちだけで海外営業をするのは難しいので、現地でソリューションを売り込んでくださる方とのご縁ができるとうれしいですね。

—【松嶋】今すぐの海外展開を目指しているというよりは、今後の可能性を検討していきたい、ということですね。

—【白坂】そうですね。AI Samuraiは株主の皆様から10億円の資金調達をしていますし、会社としてEXITの方向性を示していく必要もあります。売却か上場か、まだ検討している段階ではありますが、企業価値の最大化を図りたいなと思っています。

私個人としては、私自身が発明家としても活動していて特許も取得していますので、日本企業に役立つ機能、発明をこれからも生み出していきたいです。中央エフエムで『テックニキ白坂一のイノベーションの種はココにある!』というラジオ番組のなかで、子どもの発明をサポートするような活動もしているので、そちらも引き続き頑張っていきたいなと思っています。

—【松嶋】先ほど、弁理士の教育にも注力していきとお話しされていましたね。白坂さんのなかで「教育」が、未来のテーマになりつつあるのだろうかと思いました。

—【白坂】そうかもしれません。防衛大出身の教授が「人間の仕事で一番尊いのは、人に物を教えることだ」っておっしゃっていた言葉がとても心に残っていて。将来は、子どもたち向けの発明教室のようなことをやってみたいです。

ただ、子どもに教えるのは大変なところもあるので、そこでITをうまく活用していきたいなと。そして、未来の発明王を増やして、日本国内にスタートアップ、ベンチャー企業をどんどん増やしていくことに貢献したいですね。


【クレジット】
取材・構成/松嶋活智 撮影/原哲也 企画/大芝義信